あの日から、一体どれぐらいの月日が流れたのだろう。
だのに、久しぶりに入る二人の部屋は、何一つ変わってはいなかった。

すやすやと眠るコレットを見つめ、クレアはゆっくり口を開いた。


「…ごめん、なさい…」


気づいてあげることが出来なくて、力になってあげることが出来なくて、ごめんなさい。
旅を初めてから、少しは成長したと思っていた。
だけど、苦しんでいる友達一人救えないようじゃ、それは「成長した」といえない。


「…ごめん、ね…」


いつもそう。
コレットの為に、私はなにもしてあげられない。

私に、力があれば。

そうしたら、こんなにもコレットを苦しませずに済んだのに。
コレットは、心の底から笑っていられたはず…。


「コレット…!」


どうにかしてコレットを助けてやりたいが、あのリフィルでも、原因や治療法が分からないのだ。

だが、悔しくても、涙は流さない。
だって、私が泣いても、なんにもならないから。

大きな栗色に溜まった透明な雫は、何度も何度も、袖で拭われた。


「…神子を救いたいか」

「え…?」

「神子を救いたいかと訊いているのだ」


いつの間にか、部屋の片隅にクラトスがいた。
長い前髪で顔が隠れ、その表情を窺うことは不可能だ。

突然過ぎる出来事にクレアは、問い掛けの返事を用意することが出来ずにいた。

二人の間に、沈黙が流れる。


「…答えが出ぬようなら」

「………たい」


どんなに苦しいことでも、僅かな可能性だとしても、コレットを救う方法があるのなら…!


「…コレットを…助け、たい…!」

「…そうか。ならば、古代カーラーン大戦の資料を調べるといい。ユウマシ湖での、ユニコーンの言葉を思い出せ」


それだけを伝えると、クラトスはマントを翻し、一階へ下っていった。
去り際に、気になる言葉を残して。


「…病は、自覚症状や初期症状が現れないものほど、恐ろしい。注意を払っておくのだな」


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