大地は死ぬ。だが、あの歪んだ大樹と、デリス・カーラーンに住む天使は生き残るというのだ。
マナの流れを切り替えて照射を止めることは出来る。
しかし、それでは暴走する大樹をおさめることは出来ない。
クラトスは、そう言った。
「テセアラでも、あの大樹は同じように暴走しているのか?」
「いや、それはなかろう。影響を受けて、地震程度は起きているだろうが…」
「…そうね。恐らく、コレットの世界再生によって、シルヴァラントの精霊が、活性化しているはず。だからシルヴァラントの精霊に引きずられて、こちらで大樹が暴走しているのよ」
「それは正しい。精霊達はそれぞれ、陰と陽の二つの役割を、神子の世界再生によって交代で受け持っている。現在、陽であるマナの供給を担当しているのが、シルヴァラントの精霊だ。だからこそ、大樹は、マナの過摂取で暴走しているのだろう」
「…だったら、相反するもう一方の精霊の力をぶつければ、中和されるんじゃないのか?前に先生が、磁石のプラスとマイナスは、中和されるって言ってた。そういうことだろ?」
磁石と世界では、随分と規模が違うが、非常にロイドらしい意見だ。
リフィルが賛成し、クラトスがなにも言わないことから推測するに、この方法は、可能性がない訳ではないようだ。
「仮に、テセアラ側の精霊をぶつけるとして、どうやってぶつけるんだい?あんな風に暴れてる大樹の足元までは近寄れないよ」
「…魔導砲だ。あれに、テセアラの精霊のマナを込めて、大樹に向かって放つ」
「確かに、それ以外方法はなさそうだな」
しかし、まずは現状のマナの照射を止めなくてはならない。
このままマナの照射が続けば、大樹は更なる成長を遂げ、中和どころの騒ぎではなくなってしまう。
「…ユアンよ。きさまがどこに所属し、何をしているのか、私は見なかったことにする。だから、今すぐにレネゲードへ指示を出し、マナの照射を止めろ。ロイド達は、魔導砲へ向かえばいい」
「…よかろう」
各々の向かうべき場所が見えてきた、その矢先。
通信機越しに「イセリア牧場に潜入したレネゲードは、フォシテスによって処刑された」との言葉を耳にする。
どうやら、内通者にマナ照射の切り替えをさせていたようだ。
「要するに、今から侵入して照射を止めなくちゃならねぇってこったな」
「…では、私が行こう」
「貴公が?敵対する貴公一人を行かせるというのか?」
「我らの同志を向かわせる」
「魔導砲の準備。各地の魔導炉の停止。…レネゲードには、やってもらわねばならないことが多い。余計な手勢を裂くな」
だが、クラトスはクルシスの天使なのだ。
人間牧場を支配するディザイアンは、クルシスの下位組織。クラトスは、いつでも一行やレネゲードを裏切ることが出来る。
「…しいなとレネゲードで魔導砲に向かってもらう。俺達と…クラトスでイセリア牧場へ潜入する。しいなは、俺達の指示で魔導砲を打て。しいなだって、クラトスからの指示だけを信用は出来ないだろ」
「…そいつは、そうだけど…」
「…ショコラか?」
クラトスの言葉に、ロイドの肩が震える。
ショコラは、イセリア牧場で知り合った女性、マーブルの孫。
マーブルの最期を知り、ロイドらの助けに手を伸ばすことなく、自らディザイアンに捕まり、連行された少女。
ロイドは、否、一行は忘れてはいなかった。
必ずショコラを助ける。
今は亡きドアと、そう約束を交わしたから――。
「分かった。お前達に任せる。後は頼んだぞ」
「…行くぞ、みんな!」
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