「一体、何が起きたんだ!」
「目茶苦茶じゃねぇか…」
そう。ゼロスの言葉通り、荒れ狂う大樹の『根』は、すべてを破壊していった。
マナの守護塔から避難する途中、逃げ惑う人々の叫び声が、クレア達一行の耳に届いた。
「ねぇ…あれが…大樹カーラーンなの?」
「…マーテル!?何故マーテルが、あのようにグロテスクな大樹と復活するのだ!?」
大樹の中心で輝いているそれを、女神マーテルだとユアンは言った。
太い幹や鋭い枝が、彼女を守るように幾重にも重なっている。
否、守るのでなく、取り込もうとしているのだ。
「《大いなる実り》が、精霊の守護という安定を失い、暴走したのだ」
「そんな馬鹿な!精霊は《大いなる実り》を外部から遮断し、成長させない為の手段ではなかったのか?」
「それだけではない。二つの世界は、ユグドラシルによって強引に位相をずらされた。本来なら、互いに分離して、時空の狭間へ飲み込まれてしまうのだが、二つの世界の中心に《大いなる実り》が存在しているからこそ、それは回避されている。《大いなる実り》は、離れようとする二つの世界に吸引され、どちらかの位相に引きずり込まれようとしている。故に、いつ暴走してもおかしくない、不安定な状態にあった」
マーテル。
《大いなる実り》に取り込まれようとしている彼女は、マナの血族であるクレアやコレットを始め、シルヴァラント全土が信仰している女神。
テセアラでも、それは同じことだろう。
そして、クルシスの指導者ユグドラシルが、なんとしてでも守り抜きたい存在。
「…待て!それでは、精霊の楔は《大いなる実り》を二つの世界の狭間に留まらせる為の、檻として機能していた。…そういうことか」
「その通りだ。安定を失った《大いなる実り》に、お前達がマナを照射した。結果、それは歪んだ形で発芽し、暴走している…。融合しかかったマーテルをも飲み込んでな」
「理屈はどうでもいい!このままだと、どうなるんだ!」
「…クラトスの言葉が事実なら、シルヴァラントは、暴走した大樹に飲み込まれ、消滅する。シルヴァラントが消滅すれば、聖地カーラーンと、異界の扉の二極で隣接する、テセアラもまた消滅する」
「…みんな…死ぬんですね」
――どくん。
プレセアの言葉に、クレアの心臓が跳ねた。
このままなす術なく指を銜えているだけでは、世界は滅びる。
世界が滅びるということは、大地も消滅するということ。
大地がなければ、人は生きてはいけない。
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