日も、大分沈んできた。
結果を出すのは明日の朝、そろそろ心を決めなくてはならない。
「クレアちゃんは、この旅が終わったら…どうするんだ?」
「私、は…」
「この旅が終わったら」分かってはいても、聞きたくなかったその言葉。
ロイドがいてコレットがいて、ジーニアスがいて、先生がいて。しいながいてプレセアがいてリーガルさんがいて、ゼロスがいる。
だけど、幸せなこの時間も一生続く訳じゃない。
「私は…再生された世界を回ろうと思う。色んなものを見て、色んなことを感じて、色んな人に恩返しがしたいの」
「一人でか?」
「うーん…。そだね、きっとみんな、やりたいことがあるだろうから…」
八人それぞれの考えがあるのだから。
中には、再生された世界で、新たな使命をもつ者も出てくるだろう。
やりたいことや成すべきことがあるのに、個人の我が儘に付き合わせる訳にはいかない。
「…だったら、俺さまもついていっていいか?」
「…え?でも…」
まさか、ゼロスがそんなことを言ってくれるなんて思ってもいなかった。
だって、彼には帰るべき家があって、彼の帰りを心待ちにしている人も、沢山いるのに…。
――嬉しい。
だけど、私の我が儘に付き合わせるのは…。
「俺さまが行きたいって言ってんだから、クレアちゃんの我が儘なんかじゃないぜ?…それに、クレアちゃんのこと、もっと知りたい…」
「…ゼロ、ス…?」
「目、瞑って」
「…こう?」
二人の唇が触れるまで、あと数センチ。
だが、触れる直前に降り懸かった元気な少年の声で、それは叶わなかった。
「あー!ゼロスだ!」
「…んだよ、クソガキ」
「俺、知ってるぜ。ゼロスを捕まえると賞金が出るんだろ?」
「お、捕まえられるか?」
少年を挑発し、にやりと笑うゼロス。
しかし、少年はその煤まみれの左手を差し出すだけだった。
「捕まえねーよ!見逃してやるから、何かくれ」
「人にたかると、ろくな大人にならねーぞ」
「ちぇっ、けち!…今回は見逃してやるから、捕まるなよ、ゼロス!」
「へいへい」
ゼロスが手を振ると、少年は貧民街の奥へと走り去っていった。
「…ふふっ」
「…ここも、まだ捨てたもんじゃねぇだろ?」
シルヴァラントよりも酷い、格差社会。
貴族達が裕福な生活を送る反面、貧民街で暮らす住人は、日々貧しい生活を送っている。
けれど、心までが貧しくなっている訳ではなかった。
『心は同じ』と言ったロイドの言葉が、何度も何度も、繰り返された。
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