「ゼロス。ここって…」


メルトキオ付近へと着陸したレアバード。
てっきり、セバスチャンに会いに行くものだと思っていた。
しかし、ゼロスがクレアを連れて来たのは、屋敷のある貴族街ではなく、貧民街だったのだ。


「わりぃな、無理矢理連れて来ちまって」

「ううん。…でも、どうしてここへ?」

「…クレアちゃん」


へらへら笑っていたはずの表情が、突如として真剣なものに変わる。

やっぱり、ゼロスは綺麗だなぁ…。なんてことをぼんやり考えていたら、再度名前を呼ばれた。
クレアの意識は、現実の世界へと引き戻される。


「なぁに?」


闘技場での一件があってから、クレアはゼロスのことを避けるようになった。
彼以外の仲間には、変わらず『ファーストエイド』を唱えるというのに。
否、ゼロスはクレアと同等の治癒術を使うことが出来るので、わざわざ彼女に回復してもらう必要はないのだが。


「単刀直入に聞くけどよ。なんで俺さまのこと、避けるんだ?」

「…え?えと…それは…」

「愛想が尽きた?」

「ち、ちが…」

「信用、出来なくなった?」


後に、氷の神殿での出来事を耳にしたクレア。
ゼロスの行いで、自身の命が危険に晒されたということ。

でも、ゼロスは私を守ってくれた。
だから今私は、ここにいる。


「…嫌いになった?」

「…っ、違うよぉ!」


嫌いになってたら、一緒に行動する訳がない。
嫌いじゃない。でも、一緒にいると、近くにいると、なんだかどきどきするから…。

それとは逆で、ゼロスが他の女の人と楽しそうに喋ってると、胸がもやもやするから。
その感覚が嫌で、無意識のうちに避けていた。


「…ごめん。流石に言い過ぎたわ」


‘嫉妬’という感情に戸惑うほど、純粋な彼女。
真っ直ぐで、明るくて、かといって繊細さがある訳ではないのだけれど。
おっとりしているのかと思いきや、こちらの心の機微は捉えてくる。

そのくせ心配性ときた。
でもきっと、そんなのは偽善だ。
今まで沢山の偽善者を見てきたから。この少女も一緒だろう。
そう、思っていた。


「…私、ゼロスのことを嫌いになったなんて、一度も言ってない…。避けてたのは…ゼロスが他の女の人と楽しそうに喋ってるのが、嫌だったから…。どうしてか分からないけど、嫌だったの…」

「…クレアちゃん。それ、俺さまも一緒だぜ?」

「…え?」

「俺さまも、クレアちゃんが他の野郎と楽しそうに喋ってると、目茶苦茶つまんねぇの。…この気持ち、なんて言うか知ってるか?」


自分にはもったいないぐらい真っ直ぐで、明るくて、純粋な彼女。
だから、眩しすぎて、見ているのが辛かったのかもしれない。
彼女と違って、自分は薄汚れた人間だから。

ほら。やっぱり彼女は、首を横に振った。


「…‘嫉妬’だよ」

「…シット?」

「そ、嫉妬。こいつがなかなか厄介で、好きな相手が自分以外の異性と楽しそうにしていると、嫌な気持ちにさせるのよ」

「ん?」

「…例えを挙げるとだな。俺さまは、ロイドくんとクレアちゃんが楽しそうにしていると、つまらない。これは、俺さまがロイドくんに嫉妬している。そうそう、クレアちゃん、前に俺さまがしいなにキスしようとした時、間に入って止めたよな?」

「…あ、あれは…」


仲間達の驚愕の眼差しを浴びることがよほど恥ずかしかったのか、過去の出来事を思い出したクレアは、顔を真っ赤にさせる。


「その時『嫌だ』って言ってたろ?…それが、嫉妬だよ」


まったく、どうしてここまで必死に説明してやらねばならんのだ。
そう、百戦錬磨の俺さまがたかだか嫉妬の説明で必死になるなんて、世界中のハニー達から見たら、大層滑稽な姿だろう。


「私が、しいなに…シットした?」

「そ」

「そっか…そうだったんだ!それじゃあ私は…」


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