『リーガルさまは、私を助ける為に、私を殺してくれたの。…それしか、方法がなかった』

「マーブルさんと、同じだったんだ…」

『最後に会えて、本当よかった…。もう思い残すことはないわ。だからリーガルさま、どうかもう自分を責めるのはやめて』

「アリシア…しかし私は…お前を…」

『私は、もうすぐ消えてしまうから…。心配の種を残させないで下さい』


アリシアが、悪戯っぽく微笑む。
普段は誰よりも落ち着きがあり、冷静なリーガルが、なんだか少しだけ小さく見えたような気がする。


『その手の戒めがなくても、リーガルさまは十分に苦しんだはずです』

「…私は、愛するお前を手にかけた。これは私の罪の象徴であり罰だ」

『…そんな罰、もういりません。お願い…リーガルさま』

「………」


いくらアリシアの願いといえど、自身の犯した罪を忘れる訳にはいかない。
否、忘れろといっている訳ではないのだろう。

私に「自由に生きて欲しい」と、そう願っているのだ。
それは、充分承知している。だが――


「俺もジーニアスも、似たような思いを味わった。それに、想像してみたんだ。…俺の父さんも、化け物になった母さんを手にかけた時、苦しんだんじゃないかって」

「…お前の父親も、そうだったのか？」

「…そう聞いた。父さんやあんたの選択がいいことだったのか、俺には分からないけど、俺の母さんはきっと、父さんがあんたみたいに自分を罰して生きることは、望まないと思う」

「…そうだろうか」

『…ええ。その人の言う通りです。少なくとも私は、そんなこと望んでいない…』


大切な人だからこそ、愛しい人だからこそ、自由に生きて欲しいのだ。
過去に囚われることをやめて、前を見て歩いてもらいたい。

私の時間はもうすぐ止まるけれど、リーガルさまの時間はこれからも進み続けるのだから…。


「…分かった。…しかし、この手は二度と、無駄に命を殺める道具とはせぬ。私はお前に…お前とロイドに、それを誓う。そして、エクスフィアで人の命を弄ぶ者達を打ち倒した時、この戒めを外すことにしよう」

『…ええ、リーガルさま。お姉ちゃん…。私、これでようやく逝けそうよ。最後の我が儘、聞いてくれる…？』

「なに？アリシア…」

『私がエクスフィアになりきってしまう前に、結晶を破壊して欲しいの』

「どうして？このままでは駄目なの？」

『このままだと私は、永遠に生きてしまう。喋ることも出来ず、ただぼんやりとした意識のまま、未来永劫生き続ける。それは、地獄だから…』


どんな形でも、アリシアには生きていて欲しい。
だけど、アリシアを苦しめることになるのなら。

アリシアが、それを望んでいないのなら…。


「…プレセア、リーガル。どうする？」

「アリシアを、解放してやってくれ…！」

「…そうですね。アリシア…さようなら」

『…ありがとう。お姉ちゃん、リーガルさまを恨まないで、お願いよ…』


アリシアの姿が消え、エクスフィアの輝きが弱まった。

それを合図に、ロイドが刀を抜く。


「…待って！」

「…クレア？」

「…ファーストエイド」


クレアが治癒術を唱えると、エクスフィアの光が柔らかいものに変わった。
助けることは出来ないけれど、せめてもの餞に。

失った命は取り戻せない。死んだものは生き返らない。

だったら、その意志を背負う者が、死した者の分まで生きること。

さようなら、アリシア…。














to be continued...



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