「…っ!?」


異変は、すぐに起きた。
ロディルの緑色の肌が、崩れ始めたのだ。
否、肌だけではない。腕も、瞳の周りの肉も同じように溶けだした。


「何ということだ…!私の体が…か、体が…朽ち果てていく…!騙したな…プロネーマ…!しかし、ただでは死なんぞ…。きさま達も道連れだ!」


――どくん。


腕が、肌が、肉体が、焼け爛れてゆく。
一行は、消えゆく一つの‘命’を目の前にし、ただ唖然と立ち尽くすことしか出来なかった。


「っ、いけない!自爆装置だわ!」

「くそっ!止めるんだ!」


牧場に潜入する際、ボータに「ここの牧場は破壊するな」と何度も念を押されていた。
なんでも、魔導炉は《大いなる実り》の発芽に欠かせないらしい。

ここを破壊されてしまっては、大樹の発芽を叶えることが出来なくなってしまう。


「無理です。私達の中で、この機械を扱えるのは、リフィルさんぐらいしか…」

「先生!」

「分かっています!でも、一人では追いつかないわ!」


ディザイアン随一の知恵者を名乗るロディル。
あのリフィルが追いつかないとなれば、事実その知力は計り知れないものだったのだろう。

灰と化した今、それを確かめる術はないが。


「我々が引き受けようぞ。お前達は、そこの地上ゲートから外に出て脱出するのだ」

「ボータ!無事だったのか!」

「そんなことは後でいい。早く外に出ろ。お前達がいては足手まといだ」


ボータの一喝で、一行は上へと続く階段に足をかけた。
ただひたすらに走り、階段を上る。
最後尾のロイドが、広間に到着した時だった。

ボータ達の元へと続く階段が、封鎖した。


「大変だ!あそこのドアを開けてやらないと」

「…駄目だ!開かないよ!」

「ボータ達だわ。水がくることを知っていて、わざと鍵をかけたのよ。…扉が開けば、ここにも水が押し寄せてくる。ここは、見れば分かる通り、天がドーム状に覆われているわ。水の逃げ場がないのよ」

「…私達を…助ける為?」


透明な壁越しに、作業するレネゲード達が映る。
海水が足元まで迫っているというのに、彼らは少しも手を休めない。
命あるものならば、誰でも「死」に対する恐怖があるはずなのに。

命を落とせば、家族に、友人に、仲間に、もう二度と会えなくなる。
そして「自分」を失う。

彼らにも家族がいて、仲間がいて、命がある。

それなのに彼らは、レネゲード達は、臆することなく作業を続けた。


「自爆装置は停止させた」

「ボータ!あの扉を開けろ!俺達で上のドームを破壊すれば…」

「我々の役目は《大いなる実り》へマナを注ぐ為に、各地の牧場の魔導炉を改造すること。それも、この官制室での作業をもって、終了する。お前達には、我が成功したことを、ユアンさまに伝えてもらわねばならない」

「そんなことは自分で伝えろ!いいから扉を開けやがれ!」


一行とボータ達を隔てる壁を突き破れば、彼らは助かるというのに。
だのに、その壁はロイドの斬撃でも、リーガルの攻撃でも、破ることは出来なかった。

けれどロイドは、諦めることなく剣を振り続ける。
クレアもそれにならい、治癒術でロイドの身体能力を上げ、自身でも魔術を放つ。

しかし、傷一つつけることすら叶わなかった。


「真の意味で、世界再生の成功を祈っている」


海水は、腰まで迫ってきた。
ボータもその部下も、覚悟を決めている。


「ユアンさまの為にも、マーテルさまを、永遠の眠りにつかせてあげてくれ…」














to be continued...

(10.12.27.)


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