無事に敵地を脱出することが出来たクレア達一行は、トリエットの宿屋で一泊することとなった。
「…つまり、このエクスフィアは私達の潜在能力を引き出す増幅器なのね。私にも…使えるだろうか♪」
「うーん…要の紋さえあれば俺にも直せるんだけどなぁ」
「…その要の紋というのはここの中にないのかしら」
要の紋無しのエクスフィアは人体に毒なのだ。
だのに、エクスフィアは身体に直接装着しなければ意味が無い。
エクスフィアから流れ出る毒を制御する為に要の紋の役割があるのだ。
「姉さん!これ、家から持って来たの!?」
「当たり前です。…これがバラクラフ王廟の聖なる壺。これがマーテル教会聖堂の宝剣。これがアスカード遺跡から出た神官の冠。これはハイマの鉱山から出た黄鉱石…」
ガラクタ――基、貴重なコレクションを包んでいた風呂敷を広げ、誰も頼んではいないのに延々と説明をしていく。
コレットとクレアの二人だけが興味を持って聞いていた。
「これは…」
時にクラトスが小さな光る物体を拾い上げる。
「ああ、それは人間牧場の前で拾ったのよ。天使言語が彫られていたから持ち帰ったの」
「先生!これ、要の紋だよ!」
「しかし途中で紋章が擦り切れている。このままでは使えないぞ」
クラトスから要の紋を受け取ったロイドは色んな方向から、それを見る。
「…これぐらいなら直せるよ。大丈夫、明日には先生もエクスフィアを装備出来るよ」
「本当!?ありがとう、ロイド!じゃあ悪いけど、お願いするわね」
* * *夜も大分更けていたので皆は各々の部屋にて眠りに就いた。
二階の奥の部屋にはコレットとクレアが、その隣りにはセイジ姉弟が、一階にはロイドとクラトスに部屋が宛がわれた。
「よし、完成だ!先生に渡して来るよ」
「…ああ」
ロイドが嬉しそうに声を上げると、壁に凭れ掛っていたクラトスがそれに答える。
二階へと続く階段を上り、扉をノックすると短い返事が返って来た。
「先生、まだ起きてたんだ」
「ええ、モンスターについて調べたことをまとめているの。あなたこそ、夜更かしはいけなくてよ」
気持ち良さそうに眠っているジーニアスを起こさないよう、二人は小声で会話をする。
「…先生の要の紋を直してたんだよ」
ロイドは少しだけ口を尖らせる。
それを見たリフィルはクスクスと笑う。
「ええ、分かっているわ。でも旅は長いのだし、いつでも構わないのよ?」
「…ってことは俺達もこの旅について行って良いんだな!?」
「はなからそのつもりでしょう?」
「へへ…。そうだ、要の紋が出来たから渡しとくよ」
要の紋を手渡すとリフィルは至極嬉しそうに微笑んだ。
「使い方はジーニアスに聞いてくれ。じゃあおやすみ、先生」
「ええ、ありがとうロイド。ゆっくりおやすみなさい」
リフィルは修理された要の紋にエクスフィアを装着させる。
そして愛しそうに掌に乗せて、呟く。
「くくくくく!これが…エクスフィア!素晴らしい!!」
目的を果たしたロイドは自身の部屋へ戻ろうと階段を下りる途中、宿屋から出て行くクラトスの姿を目撃する。
時間も時間なため、理由を尋ねようと後を追った。
するとクラトスはノイシュのいる小屋へ歩いて行く。
(ここからじゃ遠くてよく見えねぇな…)
扉に隠れていたロイドは一歩、また一歩とクラトスに近付いて行ったその時。
「うわわっ!」
目にも止まらぬ速さで剣を抜き、ロイドの喉元へと突き付ける。
「ロイド…か。すまない。だが、私の背後には立たない方がいい」
「そ…そうするよ」
背後に立っていたのがロイドだと分かるとクラトスは剣を鞘に納める。
その後暫くロイドの鼓動は早鐘のように鳴っていた。
「なぁ…あんた動物が好きなのか?」
漸く気持ちが落ち着いたところで、声を発する。
「いや、別に」
「…にしちゃあノイシュも敵意を持ってねぇみたいだけど」
そう言ってノイシュの首元を掻いてやる。
「私も昔、動物を飼っていたことがある」
「へえ…」
それきりクラトスは閉口してしまい、長い沈黙が流れる。
(き、気まずい…ん?)
不意に隣りから熱い視線を感じる。
あまりにも真っ直ぐ見られているため、少したじろぐ。
「…ロイド」
「なっ、なんだよ」
「お前は太刀筋が荒い。もう少し隙をなくすように心掛けるんだな。命を落とさないためにも」
そう言って宿屋へと踵を返してしまった。
その後ろ姿を見てロイドは独りごちる。
「かーっ!ちょっと俺より腕が立つと思って偉そうに!…いや、大分かな…くそっ!」
ノイシュに別れを告げ、ロイドも部屋へと戻る。
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