「おわっ!?」

「…ごっ、ごめんねロイド!だいじょぶ?」

「あ、ああ…。だっ、大丈夫だから、その…。クレア、顔…」

「顔?」


ぱちくり。

目の前で、大きな栗色が瞬く。
あと少しで、鼻の頭がぶつかるほどの至近距離。
馬乗りの姿勢。
そしてなにより、間違って動けば、唇が触れてしまいそうだった。


「ここは…多分、パルマコスタのはずれ…だわ」

「…マナの量は増えてるみたいだけど、間違いないよ。ボク達は、シルヴァラントに来たんだ」

「うひゃ〜!こんな形でこっちに来るとは思ってなかったなぁ…」

「ゼロス!どうして邪魔したんだい!」

「…あのな〜!お前だって死にたかった訳じゃねぇだろ?第一、お前が死のうが死ぬまいが、あいつらは俺達を狙ってきたはずだ。教皇の命令ならな」


ゼロスの言葉通り、くちなわと共にいた騎士団は、教皇の手の者だろう。
緑色の鎧に長い槍。
彼らは、幾度となく一行の前に立ち塞がってきた。

「…しいな。無茶しちゃ駄目だよ。私と同じ間違いはしちゃ駄目。自分を犠牲にしても、いいことはないよ」

「そういうこと。ゼロスにお礼をいえよ。しいな」

「…ありが…とう」

「なーになーに。キスの一つや二つくれても、罰はあたらないぜ?」


にこりと微笑み、しいなの頬に手を伸ばす。
もちろん本当にする気はないし、しいな本人もそれを分かっていた。

ちょっとした、悪戯心というものだ。


「…っ、駄目!」

「え?」

「…キスは、駄目…!駄目っ…!」

「クレア…?」

「えと…よく、分からないけど…嫌、なの…!」


かあああと、顔を真っ赤にさせるクレア。
まるで、ゼロスの髪色のようだ。
悪戯を仕掛けた本人はというと、クレアの表情を見て、より一層加虐心に火がついたらしい。

今度はクレアの頬に手を伸ばし、顔を近付け――


「いでででで!」


ることは叶わなかった。


「ぎっ、ギブギブ!ロイドくん!」

「ふん!」

「…ゼロスくん、最低です…」

「…うっ、キツい…」


今のは少々やりすぎたか、と反省するゼロス。
だが、謝罪をすれば、心の広い彼女は当然のように許してくれる訳で。

ロイドくんに嫉妬した、なんて俺さまもまだまだ子供だな…。

そう、確かにゼロスは‘嫉妬’したのだ。
しかしそれは、クレアも同じこと。気付いていないだけ。その感情を、理解していないだけ――。


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