あの後アルタミラで得た情報を元に、異界の扉へと向かう一行。
シルヴァラントへの道が開くには月の満ち欠けが関係しており、丁度今日がそれに当たるらしい。


「先生!」

「みんな…!どうして、ここに」

「姉さんが心配だからに決まってるだろ」

「一人でこんなところまで来るのは危険です。同族として、放ってはおけません」

「先生、どうしてここへ来たんですか?」


リフィルは遺跡へと歩み寄り、三本ある柱のうちの中央に触れる。
夜風にさらされたそれは、とても冷たかった。

指先が、かじかむ感覚。

まるで、あの日の出来事を彷彿させるかのようだ。


「ここは…私とジーニアスが、捨てられていた場所だから。…コレットを助けた時、目に入ったこの場所が気になっていたの。そして二つの世界を繋ぐ二極の話を聞いて、確信したわ。ずっと探していた風景はこの場所で、探していた遺跡は、これだったんだって」

「え…?」

「嘘だ!だってボク、イセリアの記憶しかないよ。こんなところ知らない」

「…私達は、エルフの里で生まれ、育った。そしてその後疎まれて、ここに捨てられたの…。ここが伝説のシルヴァラントへ続く道だと、伝えられていたから。詳しい経緯は分からない。でも、確かに私は、生まれたばかりのジーニアスと共に、ここへ置き去りにされた…。そして、シルヴァラントへ流れ着いたのよ」

「では、今度こそ黄泉の国へ送り込んでやろう」

「くちなわじゃないか!一体何を言い出して…」


そこまで言って、しいなは口をつぐんだ。
くちなわの背後に、なにやら複数の緑色が控えている。

月明かりに照らされて浮かび上がるそれは、夥しい数の教皇騎士団だった。


「ようやくチャンスが巡ってきた。今こそ両親の仇をとらせてもらう」

「…両親の、仇?」

「そうだ。お前がヴォルトを暴走させた為に巻き込まれて死んだ両親と里の仲間の為にも、お前には死んでもらう」

「それは事故だったんだろ!どうして今頃になって」

「事故だと!?…こいつが精霊と契約出来ない出来損ないならまだ我慢もしたさ。それがどうだ!シルヴァラントの神子暗殺に失敗して、ミズホを危機に陥れて、そのくせ本人はといえば、ちゃっかり精霊と契約している。最初の契約の時は手を抜いたんだ。そして親父達を、殺した…!」

「手なんか抜いてないよ!あたしは…」

「黙れ!」


空気が、震える。

一行は完全に包囲され、逃げ場をなくした。
敵の数を見れば、反撃が無駄であることなど、嫌でも理解する。

くちなわの殺意は、紛れなく本物だ。


「くちなわ、お願いだよ!ロイド達は巻き込まないどくれ!あたしが憎いんだろ?だったらあたしだけ殺せばいいじゃないか」

「何バカなこと言ってるんだ!」

「いいんだ!くちなわ…頼むよ!」

「よし。いいだろう」


一歩、一歩とくちなわの元へ歩むしいな。
相手を刺激しないよう、ゆっくりと。けれども確実に。


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