レザレノ・カンパニーの屋上にある空中庭園。
中央には円形の噴水があり、左右に設置された天使の水瓶から、澄んだ水がとめどなく流れ出る。
墓標に供えられていた小さな白い花が咲き乱れ、風に靡くそのさまは、まさしく『庭園』と称するに相応しい。
「…アリシア…。こんな姿に…」
「…これは、何ですか?」
「ん?ここに埋められているのは、エクスフィアだ!」
「どうしてエクスフィアが…」
すると、墓標の中心に埋め込まれているエクスフィアが、輝きを放った。
『お姉ちゃん。お姉ちゃんでしょ』
「…!アリシア…?」
『消える前に会えてよかった…』
プレセアと同じ桃色の髪を、高い位置で二つに結わえている。
幼さの残る面持ちの彼女が、プレセアの姉妹『アリシア』なのだろう。
半透明の身体は、手を伸ばしてみても触れることは叶わなかった。
「どうなっているの?まだ生きてくれているの?」
『私は…今、エクスフィアそのものよ。もうすぐ、意識もなくなってしまう。私の身体は、エクスフィアに奪われたまま死んでしまって、私の意識は、エクスフィアに閉じ込められてしまったの』
「…あなたまで、エクスフィアの被害に…」
『お姉ちゃん、お願い。私が消える前に、私のご主人さまを、ブライアンさまを探してきて』
「ブライアン…?あなたが奉公に出た貴族?」
『そう…。彼が私を殺すことで…』
アリシアの身体が薄れ、アリシアの声が小さくなってゆく。
どうやら、彼女が彼女でいられる時間は、残り少ないようだ。
「アリシア!その人に殺されたの!?…教えて!」
『…お願い…。お姉ちゃん…』
その言葉を最後に、何度声をかけても、アリシアは反応しなくなった。
「ロイドさん。お願いします。…アリシアの仇を、探して下さい」
「…ああ、分かってる。ブライアンって奴を叩き潰して、連れて来てやる!」
「そうだよ。キミの妹を殺すなんて許せない!」
「…ありがとう」
帰るべき故郷を失って、父親を失って。
唯一の肉親である妹までも失っていた。
全て、心を喪失している時に起こった出来事。訃報を知ることもなく、動き出した時と心と共に届いた、残酷な知らせ。
時間は、元には戻らない。
「どうしたの?」
「…エクスフィアって、恐ろしいものなんだね」
「そうだね…」
アリシアの眠る墓標、否、その中心に埋め込まれているエクスフィアを見つめ、ミトスが呟いた。
*prev top next#