「すまないが、私はここで待たせてもらう」
「どうしたんですか?」
「………」
「だんまりか。まあ、言いたくないならいいんじゃねぇか?ロイド、言う通りにしてやれよ」
「分かった。帰りに声をかけるよ」
観光客の絶えない《海の楽園 アルタミラ》
青い海に白い砂浜。遊園地やカジノといった娯楽施設も充実しており、子供から大人まで楽しめる街だ。
また、レザレノ・カンパニーが取り仕切る『ホテル・レザレノ』の最上階にあるスウィートルームは、五年先まで予約で埋まっているらしい。
ホテル隣の奥の通路に建てられた、ビーチにそぐわぬ一つの墓標。
そこには、小さな白い花が供えられていた。
「…アリシア!アリシアか!」
「アリシアを…知っているんですか!」
「え?お前さんは一体…」
「アリシアは…私の姉妹です」
「おおお…そうか。そうだな。アリシアは随分前に亡くなったのだ。こんなところにいる訳がないな…」
白髪の老人は、プレセアの姿を見るなり、目の色を変えて彼女に詰め寄った。
皺一つない上質のスーツと、上品な所作から推測するに、貴族であることは間違いない。
「…亡くなった…!?」
「どういうことなんだ」
「アリシアは、貴族のブライアン家に奉公にきていたのだが、事件に巻き込まれて、亡くなってしまったのだよ」
「亡くなったん、ですか…!どうして!」
「それは、私の口からは言えぬ。許しておくれ…。この街にある、レザレノ・カンパニー本社の空中庭園に、アリシアの墓がある。よかったら、そこへ行っておあげ。妹が来てくれれば、アリシアも喜ぶ。受付でこれを見せれば、通してもらえるだろう」
去り際、老人から手渡されたのは、プレセアの小さな手の平に収まる長方形のカード。
レザレノの社員証だ。
そこには『ジョルジュ』という名前が記されていた。
「妹?プレセアが、お姉さんじゃないの?」
「変だな?妹がいるって、聞いてたのに…」
「きっと三人姉妹なんですよ〜」
「ンな馬鹿な…」
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