「…オゼットがあんなことになったのは、わしのせいなんじゃ…」
アルテスタとタバサは、自身らの家の前で一行を待ち構えていた。
まるで、逃げることをやめたかのように。
一行を見据える彼の目は、覚悟を決めていた。
「どういうこと…ですか」
「…わしは、クルシスに所属する要の紋の細工師だった。だが、間接的にでも人の命を奪うような自分の仕事が嫌になってな。クルシスから逃げ出して、オゼットに身を寄せたのだ。…しかし、ロディルというディザイアンに捕まって、命と引き替えにクルシスの輝石製造を命じられたのじゃ」
「すると何だ。プレセアちゃんの研究は、ロディルと教皇が手を組んで、あんたやケイト達にやらせていたってことか?」
「…そうじゃ。ロディルはクルシスの尖兵たるディザイアンでありながら、クルシスへ反逆を企んでいるのじゃ。それにわしが荷担したから…。だからユグドラシルさまがお怒りになって、オゼットを…。わしを助けたオゼットを滅ぼしたんじゃ!」
怒りと、悲しみ。
今まで怒りという感情以外を表に出さなかったアルテスタが、ここにきて初めて‘悲しみ’をあらわにした。
しかし、感情をぶつけるべき対象は、目前にいる一行ではない。
そんなことは分かっていた。だが、そうでもしないと、心が潰されてしまいそうだったのだ。
「…すまん。謝っても謝りきれんが、今のわしには…それしか言えん」
「…私の時間は…戻ってきません。…村の人も、パパも生き返らない」
「すまん…」
「…謝らないで下さい。謝られても…今の私には、許すことが出来ないから…」
逃げ出したのだ。
自身の手で人生が狂ってしまった少女と対面することが怖くて、何度も何度も逃げ出した。
謝っても、一生を懸けても、犯した罪を償うことは出来ない。
時間を取り戻すことなど、誰にも出来はしないのだから…。
「プレセアサん。…あなたが失ってシまったものは大きいと思いまス。でも、どうかあなた自身まで失わないでくだサい」
これ以上の言葉は、かえって邪魔になる。
そう思ったアルテスタとタバサは、一行の前から姿を消した。
「ボク…少しだけプレセアさんの気持ちが分かります。どうしたって戻ってこないものはある…。それを謝られても…許してあげたくても、自分ではどうにもならないんです」
「許されないこと…それが罪なのかも知れぬ」
「…俺は違うと思う。許すとか許さないとか、そういうのは、罪ではないよ。うまく言えないけど…」
「まあまあ、そんな哲学っぽい話は置いとこーや。プレセアちゃんも無理に許してやる必要はねーし。俺さま達も、前向きに物事ってのを考えようぜぇ?」
「そうね。私はこの際、アルテスタからクルシスの話を徹底的に聞くべきだと思うわ。私達には情報が不足している。そうでしょう?」
「…そうだな。…プレセアは、ここで待ってるか?」
「…いえ…。私も話を聞きます」
プレセアは、ゆるゆると首を振った。
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