「一体、何があったんだ」

「…よく、分かりません。突然雷が落ちてきて、天使さまが村を襲ってきたんです」


ロイドが助けたのは、天使のような美しいブロンドヘアと、エメラルドグリーン色の澄んだ瞳をもった少年。
中性的な顔立ちに、特徴的な二本の前髪。歳は、恐らくジーニアスより上だろう。


「天使ですって?」

「羽が生えてました…。羽が生えているのは、天使さまなんですよね?」

「くそっ、クルシスか!」

「クルシス…。村を滅ぼしたのは、天使なんですね…」

「プレセア…大丈夫か」


気遣うリーガルに「大丈夫」だと答えるプレセア。しかし、言葉とは裏腹に、彼女の様子はいつもと違っていた。
わなわなと震える右手で、握りこぶしをつくる。


「でも…この釈然としない苛立ち…!…これが怒り…?」


長らく閉じ込められていた《怒り》という感情を知ったプレセア。
否、思い出した、と表現した方が正しいのだろうか。

彼女は、戸惑いながら、迷いながら、少しずつ感情というものを取り戻している。
だのに《怒り》という感情を思い出すきっかけがこのような形であることを、悲しく思う。


「しっかしよく無事だったなぁ。生き残りは、お前だけなのか?名前は?」

「ボクはミトス…といいます。村のはずれに一人で暮らしてたから…」

「英雄ミトスの名前だ!」

「…あれ。もしかしたら…キミ、ハーフエルフじゃないの?」


途端、ミトスの顔は青ざめ、みるみるうちに血の気が引いていく。
美しい双眸が恐怖と絶望に染まったところを見ると、ジーニアスの発言は的を射たものであったようだ。

ミトスは首を振り、急いで一行から距離をとる。


「ボ、ボクは…ちが…」


シルヴァラントでも、ここテセアラでもハーフエルフは蔑視されていた。
流れている血は同じ色で、生きているということには変わりないのに。
人は、自分と違う存在が怖い。
そして、自分という存在を守る為に相手を蔑む。

彼も、そんな被害者のうちの一人なのだろう。


「安心なさい。分かるでしょう。あなたも私達と、同じ血が流れているのなら…」

「…あなた達も…ハーフエルフ…ですか!でも、人間と一緒にいるじゃないですか!」

「だいじょぶだよ。私達みんな、二人の友達だから」

「…人間がハーフエルフと友達?…嘘でしょう!」

「嘘じゃないよ。ボクと姉さんは、この人達の仲間なんだ」

「安心なさい」


ジーニアスが駆け寄り、リフィルが微笑む。
その表情や態度から察するに、人間と共に旅をしていることは事実なのだろう。
少しだけ、ミトスの緊張が和らいだ。


「…う、うん。でも…」

「無理もなかろう。このオゼットは、ハーフエルフ蔑視の激しい村と聞く。この村に隠れ住んでいたのなら、つらい思いをしただろうに」


呼吸をして、食事をして、眠り、生活を送る。人間もエルフもハーフエルフも、生きていることには変わりないはず。
なのに人は、自分と違う存在が怖い。
そして、自分という存在を守る為に相手を蔑む。

――悲しい、現実。


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