村が、燃えている。
一行のささやかな願いも虚しく、オゼットは火の海に包まれていた。
建物が燃え、森が燃え、炎の勢いはとどまることを知らない。
「見て!」
コレットの指差す方向に目を遣ると、遠くに人影のようなものが霞んで見える。
すると、ロイドが真っ先に駆け出した。
仲間達の制止は耳に届いていないのか、ぼんやりと見える人影を背負い、こちらに向かってくる。
「っ、ロイド!」
「危ない!」
頭上で燃えていた家屋の木片が、ロイド目掛けて落下してゆく。
人を背負っている故に両手が塞がっており、自慢の双剣に手を伸ばすことは出来ない。
(…っ、くそっ…!)
――ヒュン!
絶体絶命の中、鋭い風が木片をばらばらに切り裂いた。
かまいたちのような緑色のそれは、中級魔術のエアスラストだ。
しかし、一行の周りで魔術を唱えた気配はない。
ただ一人、違和感を抱いたゼロスを除いては。
(…まさか、今のは…)
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