「…クレアさん、目を覚ましませんね…」


ゼロスの背中で眠るクレアを見つめ、プレセアがぽつりと呟いた。

以前、グランテセアラブリッジでも同じことがあった。リフィルの見解によると、許容量以上の力を使用することによる疲労だそう。

ある程度の休息をとればじきに回復するらしいが、ゼロスの胸中には不安が広がっていた。


(…あれは、なんだったんだ…?)


ふと、前方を歩いていた仲間達に緊張が走る。
どうやら思考を巡らせているうちに、契約の儀式が行われる広間へたどり着いたようだ。


「!」


祭壇へ続く階段に足をかけたその時、大きな揺れが一行を襲った。
揺れは一向に収まる気配を見せず、鋭い岩が地表や崖を突き破る。
精霊が警戒しているのだろうか。

クレアを落とさないようバックステップで回避すると、長い揺れが収まった。


「あっ!」


コレットの声で皆の視線は祭壇へ、否、そこから飛び出したなにかへと向けられる。

丸々とした身体に、赤い大きなリボン(のようなもの)。
くるりとこちらを向いた精霊ノームは、とても愛らしい表情の持ち主だった。

誰の予想が正しいのかと言われたら、コレットの想像が一番近いのではないだろうか。


「こいつがノームか!…コレットの言った通りだな」

「本当だね」

「えへへ、当たっちゃった!」


精霊を目の前にしているはずなのに、いまいち緊張感のないロイド達。
リフィルが咳ばらいをすれば、彼らの背筋がしゃきっと伸びた。


「ええっと、ウンディーネとヴォルトが相対関係だったんだから、ノームの場合は…」

「イフリートを同時に目覚めさせれば、マナの流れを分断出来るのか?」


先ほどの汚名を返上しようと、ジーニアスの言葉を繋げたロイド。

しかし、リフィルから返ってきた言葉は、


「シルフです!…もう、何度教えれば覚えてくれるのかしら…」


ため息までつかれてしまった。


「シルヴァラントの学力レベルは、底辺にあわせているのだな」

「…ま、まあな!」

「ロイドさん、それ…褒められていません」


照れるロイドにプレセアの冷静な突っ込みが炸裂したところで、しいなが祭壇の前へと進み出た。


「我はしいな。ノームがミトスとの契約を破棄し、我と契約することを望む」

「おまえ、かたっくるしい喋り方するなぁ」

「う…だって、こういう風にしろって習ったんだよ!」

「ふーん。まあいいや。じゃあ、ちょっともんでやるからよ」


ノームとしいなの間に流れるゆるい雰囲気はまるで、昔馴染みの友人の会話を聞いているようだ。
しかし、相手は長い時を生きてきた精霊。

落ち着きなくぴょんぴょん跳ねていた動作をやめ、登場と同じように空中高く飛び上がり、朗らかな声で言った。


「かかってこい!」


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