紅、赤、朱――。

クレアの視界には、あか色が広がっていた。


「ゼロ、ス……!?」


まともに喰らっていたら命の保障はない上級魔術だと瞬時に判断したゼロスは、その身を呈してクレアを魔方陣より連れ出した。

自身の怪我をも顧みず。


「っ、ごめんね……!私、私――」


返事の代わりに、ゼロスは力無く微笑んだ。

彼の右腕からは止め処なく真紅が流れ出ている。


「いや……嫌っ……!」


治癒術を唱えようと意識を集中させるが、動揺と焦りで心が安定しない。

その間にも、ロイド達は確実に押されていた。


「万物に宿りし生命の息吹をここに――リザレクション!」


リフィルの声と共にフロア一体に巨大な魔方陣が現れ、仲間達の傷と疲労を次々に癒してゆく。

ユアンとボータを除く全員にその効果が現れ、瀕死状態に陥っていたゼロスもそれは同じだった。


「……ゼロス!よかっ、よかったあ……!」

「……クレアちゃん」

「……うんっ!」


栗色の瞳に溜まった大粒の涙を右手で拭い、ゼロスは静かにクレアの名前を呼ぶ。

すると、クレアはゼロスに微笑み掛けた後に詠唱を始めた。

続いてゼロスも魔術を唱え始め、一言一句が綺麗に重なるそれはまるで二重唱のよう。


「タイダルウェイブ!」


ジーニアスの魔術が発動し、地表から現れた大量の水がユアンらの足を捕らえる。

いくら戦闘慣れしているとはいっても、彼らの体力も無限ではない。

ゼロスとクレアは詠唱を終え、声を帆に上げた。


『ロックマウンテン!』


ユアンらの頭上から巨大な岩石が流星のように降り注ぐと、鎧をへこませ、武器を弾き飛ばし、丸腰となった彼らの体力を削ってゆく。

――その時だった。

魔術とは違う大きな揺れが、一同を襲う。


「ロイド!これぞ神の好機!今のうちにレアバードを!」

「ああ!」


ロイドを筆頭に、仲間達が次々とレアバードに跨がり大空へと飛び立つ。

ユアンらはクレア達が放った魔術と地震に気を取られ、一行を追い掛けることが出来なかった。


「ユアンさま!今の地震はまさか精霊の楔が抜けたのでは!」

「かもしれん。今の地震について調査しろ!大至急だ!」

「レアバードはどうしますか?」

「構わん。放っておけ。どうせアレがいるのだ。すぐに居所が知れる」


ボータの姿が見えなくなると、ユアンは一行が飛び立った大空を見上げて呟いた。


「……エクスフィアが、進化している……?」














to be continued...

(10.10.30.)


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