フィヨルド地帯の海面に浮かぶ幾つもの漂流石。

そのうちの一つである一際立派な岩石の上に、レネゲードの基地が建設されていた。


「あれ、ゼロスがいねぇな?」


敵の基地に潜入する直前、ぐるりと仲間を見回したロイドが声を上げる。

彼の言った通り、白銀の景色によく映えるはずの紅い髪はどこにも見当たらなかった。


「私、探してく……」

「やあやあ、お待たせしました〜。俺さまの可愛いハニー達、寂しかったかい?」

「……ゼロス!」


けらけらと笑いながら姿を現したゼロスに、リーガルが注意を促す。

しかし、ゼロスは悪びれる様子もなく軽い態度で言葉を返した。


「一応、辺りを確認してきたのよ。罠だとマズイっしょ!んじゃま〜、ゼロスさまと可愛いハニー達の冒険再開〜♪」









一行よりも先に侵入を試みていたおろちから、レアバードが格納されている場所の説明を受ける。

格納機へと辿り着く為に必要な三つのパスコードを入手し、扉を潜ったその瞬間だった。


「飛んで火に入る夏の虫とはこのことだな!」


一行の視線の先には、空のように蒼い髪をうなじの辺りで結わえ、長いマントの中に軽鎧を身に纏っている男。

レネゲードの党首、ユアンだった。

彼の斜め後ろには、大剣を構えたボータが控えている。


「相変わらず当たり前のことしか言わねぇ奴だな」

「う〜む。確かに今時、その台詞はどうよ?」

「相変わらずふざけた奴らだ!しかし、減らず口もここまで!」


何もない空間にユアンが手を翳すと時空が歪み、彼の身長ほどあるだろう槍のような両刃刀が出現した。

中心にある柄を握り、ユアンはその翡翠色の瞳で一行を捉える。


「覚悟しろ!」


彼がそう言ったと同時、ボータが地面を蹴って一行へと猛進する。

レネゲードとの戦いの火蓋が切って落とされた。


「フィールドバリアー!」

「アグリゲットシャープ!」


リフィル、クレアと共に身体機能を最大限まで発揮出来る治癒術を仲間達全員に施す。

こちらの方が多勢といっても、相手はディザイアンと対立する組織を束ねるツートップ。油断は禁物だ。


「獅哮戦破!」

「魔神剣・双牙!」


ロイドとゼロスがユアンに挑み、プレセア、リーガル、しいなの三人でボータに挑む。

刃と刃が激しくぶつかり、体力と精神力の削り合いが開始された。


「……グレイブ!」


一見人数の多い一行が有利と思えるこの状況。

しかし、相手はクレア達とは違い、刀を交えながら詠唱を唱えることが可能だった。

それ故いつどこで魔術が発動するか分からない。

戦況は五分五分、といったところだった。


(そろそろ効果が薄れてくる頃……。もう一度みんなに治癒術を――)


先ほどよりも効果が長続きするよう、クレアはきゅっと瞼を閉じ、心の奥底に意識を集中させる。

その時、クレアの足元に巨大な魔方陣が広がり、彼女を覆うようにして半透明の囲いが現れた。


「……クレアっ!」

「危ない、避けて!」

「詠唱を中断させなさい、クレア!」


深いところへ意識を集中させているせいか、仲間達の声は彼女に届いていないようだった。


「インディグネイション」


ユアンの言葉と共に、魔法陣が弾けた。


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