「な、何だ!?」
「にゃあっ!」
突如一行の足元がぐらりと揺れ、祭壇へと駆け出していたクレアは足をもつれさせてしまう。
寸でのところでしいなが支え、その体勢のまま揺れが収まるのを待つことに。
揺れはそれほど長くなく、数秒の後に収まった。
「……おめでとう、しいな!」
「ああ、ありがと……」
しいなが照れ臭そうに微笑むと、水の精霊ウンディーネが姿を現した。
隣には、先ほど契約を交わしたばかりのヴォルトの姿が。
『二つの世界の楔は放たれた。相対する二つのマナは……今、分断されました』
「どういうこと?」
身体を起こし、クレアが問う。
『マナは精霊が眠る世界から目覚めている世界へ流れ込みます。二つの世界で、同時に精霊が目覚めたのは初めてのこと。これにより、二つの世界を繋ぐマナは消滅しました』
「それってつまり、シルヴァラントとテセアラの間でマナが搾取されなくなったってことなのか?」
困惑顔で自身を見上げるロイドの姿に、ウンディーネは静かに続ける。
『少なくとも、私とヴォルトの間ではそうです。私達は、それぞれの世界に打ち込まれた《楔》の端と端。このままマナの分断が進めば、やがて二つの世界は完全に分離するでしょう』
「そりゃあいい。それならお互いにマナの取り合いをしなくて済むってことじゃねーのよ」
「シルヴァラントに封印は五つ。最後の封印に精霊はいなかったから、四つの封印に対応する精霊を目覚めさせれば、全てのマナを分断出来る……かもしれないわ」
「じゃあ、テセアラの精霊を目覚めさせれば、シルヴァラントも救えるしテセアラも衰退しないんだな?」
二つの世界を救う方法の大きな手がかりになるかもしれない、とロイドは顔を輝かせてリフィルに問うた。
『それは分かりません。分かっていることは、少なくとも世界を繋ぐマナは消滅し、二つの世界は切り離されるということです――』
そう言うと、精霊達の姿は光に包まれ掻き消えた。
「そうだったのね……。精霊には、二つの世界を繋ぎ止めておくという役割があったんだわ。そして、精霊は封印の間を動かず、互いを通してマナのやり取りをしていた」
「でも姉さん。どうして精霊は動かなかったのかな?ミトスって人に命じられたのなら分かるけど、ヴォルトはその契約自体が破棄されていたんでしょ?」
「それは……分からないわ。精霊は何も言っていなかったし……。けれどこれで、やるべきことは決まったわね?」
リフィルの問いに、ロイドは力強い返事をする。
「二つの世界を繋ぎ止める《楔》となっている、全ての精霊と契約し、世界を完全に分断する!」
皆は互いに頷き合い、祭壇を後にしようと踵を返したその瞬間。
「……しいなさんと、コリンのお陰ですね」
「……え?」
突然の言葉に、しいなは首を傾げる。
「……お二人が命懸けでヴォルトと契約してくれたから……封印の役割も、分かったんじゃないでしょうか……?」
「ああ、そうだよ。しいなと……コリンのお陰だ。ありがとう」
手首に巻き付けていた小鈴の紐を解き、両手でそれを包み優しく呟いた。
「……コリン……。ありがとう……」
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