遺された鈴を拾い上げ、包むように優しく自身の胸元まで持ってくる。
共に喜び、共に哀しみ、時には怒り、楽しく、掛け替えのない時間を一緒に過ごした友。
懐かしい思い出に浸っていると、ちりん、と鈴が小さく鳴った。
「……コリン」
弱虫なあたしでごめん。
あんたの言葉は本物だった。
あんたが守ってくれたこの命、決して無駄にはしないから。
「……あたしを命懸けで守ってくれたみんなの為に……ヴォルト!お前の力を貸せ!」
精霊相手に一人で立ち向かうなんて無謀だ、と笑われるかもしれない。
でも、あたしにはコリンが居る。だからあたしは一人じゃない。
気付かせてくれてありがとう、コリン……。
「ナース!」
「!」
「……しいな、一人で無茶するのは駄目だよ!」
温かく柔らかな光がしいなを包むと、腕や足や頬、身体中にあった傷口が塞がってゆく。
後ろを振り返れば、クレアが優しく微笑んでいた。
(……違った。あたしには、コリンだけじゃなくて)
「フィールドバリアー」
今度は凜とした声がフロア一体に響く。
すると、身体の底から力が漲る感覚が。
(……みんなが、仲間が居てくれる!)
「我を使役したくば力を示せ、だそうよ」
「……上等じゃないのサ」
そう言うとしいなは小鈴の紐を手首に縛り付け、懐から幾枚もの札を取り出した。
瞳を閉じ、全神経を集中させて詠唱を始める。
「魔神剣・双牙!」
「紅蓮剣!」
「凄把龍昂!」
彼女が意識を集中させている間の時間稼ぎは、他の仲間達が請け負う。
かつん、という音を最後にジーニアスのけんだまが鳴り止んだ。
「行くよ、プレセア!」
「……はい!」
駆けてゆくプレセアの巨斧に炎の力が宿る。
ヴォルトと対峙した彼女は、力一杯それを振り翳した。
『クリティカルブレード!!』
振り下ろした巨斧はヴォルトを貫き(とは言っても実体がない為に「両断」という感触はないのだが)解放された炎が巨大な爆発を巻き起こした。
ヴォルトの身体がぐにゃりと歪んだところへ、しいなが一気に肉薄する。
「……そんなにお望みならあたし達の力、とことんまで見せてやるよ!」
しいなの周囲を幾枚もの札が包むと、ヴォルトの動きが急速に鈍る。
彼女は精霊の中心を形成している大きな眼を目掛け、一枚の札を翳した。
「炸力符!!」
しいなが合図を唱えると、ヴォルトの目前で激しい爆発が起こった。
爆風が辺りを覆い、振動が神殿一体に轟く。
ぴくりとも動かなったヴォルトを見て、しいなは「やり過ぎたか」と焦ったが、どうやらその心配は杞憂だったよう。ヴォルトは無傷の状態で祭壇へと戻っていた。
「ヴォルトが誓いを立てろと言っているわ……」
「さっき言った通りだよ。あたしを命懸けで守ってくれたみんなの為に、そしてコリンの為にも、みんなが住む二つの世界を助けてあげたい…!」
『%%&&%#$&+』
「誓いは立てられた。我の力、契約者しいなに預ける……!」
リフィルがそう声を上げた直後、突如ヴォルトが眩い光を放った。
実体のない身体の中心に注がれたそれが弾けると、いつの間にか精霊ヴォルトの姿は消えている。
契約の証である指輪‘サードニックス’がしいなの手の中に収まった。
「……終わった……」
漸く長い緊張感から解放され、しいなが短く息を吐いたその瞬間だった。
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