日は沈み、世界は漆黒に包まれた。けれど月が人々を照らし、たくさんの星が瞬いているから、右も左もわからないような真っ暗闇にはならない。
優しい月明かりに照らされ、ベランダで佇んでいるのはロイドとコレットだ。
「ごめんな。誕生日のプレゼント間に合わなくて」
「いいよぉ、そんなの」
「でも、ああいうのって誕生日当日にもらうから意味があるんだろ?」
「…じゃあ『おめでとう』って言ってくれる?私が16歳になれた記念に」
「あ、ああ…おめでとう」
ロイドの言葉を受け止め、コレットは嬉しそうにはにかんだ。少しだけ照れ臭そうに、恥ずかしそうに笑う彼女の姿は誰が見ても普通の女の子だ。
けれどコレットは明日、世界の希望を背負ってイセリアを旅立つ。
神子という重圧に押し潰されないよう、決意を固くして。
「えへへ…ありがと。よかった。今日まで生きてこれて」
「何いってんだ…。この後も生き抜いて世界を再生するんだろ」
「…そだね」
コレットは僅かに視線を落とした。
「なぁ、明日なんだけどさ…。やっぱり俺もついていったらダメかな?」
「駄目って言うか…。ディザイアンに狙われたりして危ない旅になるんだよ?」
「そのディザイアンだよ。俺、今まで母さんは事故で死んだんだと思い込んでた。…でも母さんは殺されたんだ。ディザイアンの連中に!それを知っちまったのに奴らと不可侵契約を結んでる村で暮らすなんて、俺には出来ないよ」
「…そだね」
星が瞬く静かな夜、コレットは胸の前で組んだ両手に視線を落とした。
目を瞑り、しばらくの間、思考する。
そしてそれから顔を上げ、不安そうな鳶色に優しく微笑みかけた。
「私達、明日のお昼に旅立つの。だからお昼頃、村に来てくれる?」と。
思いもよらない返答にロイドは顔を輝かせた。
「…ああ!分かった!これでお前が天使になるのをこの目で見られるんだな」
「…うん。やっぱりレミエルさまがホントのお父さまだったんだね。私、天使の子供だったんだ…」
「いいじゃないか。どっちが本当の親父でもコレットはコレットだ。何も変わんねぇ。ただ親父が二人いるだけだよ。人より多くて得した…ぐらいに思っとけって」
「うん、ロイドが言うならそうするね」
ロイドの育ての親ダイクは本当の父親ではない。
同じ境遇だからこそ、ロイドの言葉は真に迫るのだろう。否、そうじゃなくても「ロイドだからこそ」彼の言葉はいつも‘心’に響くのだ。
コレットは、にこりと微笑んだ。
「それにしても、再生の旅か…。何かちょっとわくわくするよ」
「そだね。封印を解放して、天使になって、そして最後には…」
「最後には?」
ロイドの問いに、コレットは「ううん」と首を振った。
胸中を支配する不安を拭うため。
決意を確固たるものにするため。
ここで弱音を吐いてしまえば、きっと進めなくなってしまうだろうから。退いてはいけない。逃げてはいけない。進むしかないのだ。
でも、そうすることで大切な人が笑っていてくれるなら――。
「何でもない。とにかく火の封印に行けばまたお父さまに会えるんだし、私、頑張るね」
「ああ、頑張ろうな」
「そろそろよろしい?」
二人が微笑みあうと部屋の方から声が聞こえた。扉が開き、声の主であるリフィル。
と、ジーニアスとクレアが姿を現した。
明日の準備もあるのだろう。いつまでもここに留まるわけにはいかない。
「じゃあね、ロイド」
「ああ、また明日な」
「うん…。さよなら…」
旅立ちは、明日。
to be continued...
(09.07.18.)
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