「…神子を奪われたか」


飛竜が向かった東へと目的を定め、一歩を踏み出した一行の前に現れたのは、見慣れた鳶色。

かつての仲間、クラトス・アウリオンだった。


「クラトス…!コレットをどこへやった!」

「ロディルは我らの命令を無視し、暗躍している。私の知るところではない。…しかし、奴は神子を放棄せざるを得ないだろう」


それは一体どういうことだと前に出たロイドを鋭い瞳で一瞥し、クラトスは冷たく言い放つ。


「神子はあのままでは使い物にならんのだ。捨て置いても問題なかろう」

「あなたに何を言われても、私は……私達は必ずコレットを助けます!」


胸元のエクスフィアに手を翳し、ロイドの横に歩み出たクレアは、栗色の双眸でクラトスを見据える。

微量だが、彼女の周囲にマナが収束されてゆく。邪魔をするつもりなら容赦はしない、という意味だろう。

フ、と唇に淡い笑みを浮かべたクラトスは、その長いマントを翻し、言った。


「…ならば東の空へ向かうがいい。ミズホの民もレアバードの在り処を発見している頃だろう」


助言ともとれる言葉を残し、クラトスの姿は深緑に紛れて見えなくなった。

彼が消えていった方角を見つめ、ロイドが呟く。


「…あいつ、一体どういうつもりなんだ」

「まあいいじゃないのよ。役に立つなら利用しとけって」

「そうサ。取り敢えずミズホの里へ戻ってみよう」


ぱちり、とウィンクを送るゼロスと肩を叩くしいなに宥められ、ロイドは不承不承ながらもミズホの里へ向かうことを決定した。

その後もしつこくくっ付いてくるゼロスを引っぺがしていると、桃色の少女を前に、頬を赤らめている親友の姿に気付く。


「じゃあ改めて…。これからよろしくね、プレセア!」

「よろしくお願いします」


深々と頭を下げるプレセアに、ジーニアスはより一層赤くなった顔を見られまいと必死に両手で覆い隠している。


「あ、あのねプレセア…!ボボボボクのことはジ、ジーニアスって…!」

「プレセアちゃん。俺さまのことはゼロスくん、って呼んでね」

「はい。ゼロスくん」


指の間から僅かに覗くそこから見えたのは、先を行くロイド達とゼロスに肩を抱かれながら歩くプレセアの姿。

一人でこんなことをやっていたのかという羞恥、配慮の出来ない仲間に対して憤慨する気持ち、しかしこれからプレセアと一緒に旅が出来るという幸せな気持ちを胸に、ジーニアスは慌てて駆け出した。


「もー!ロイドの大バカ野郎!!」














「クレア、少しよろしいかしら?」

「何でしょうか、先生」


クレアがリフィルの隣に並ぶと、最後尾を歩いていたリーガルは気配を察して歩みを速め、二人を追い越し先を行く。


「…あなた、あのままクラトスが剣を抜いたら魔術を放っていたわね?」

「!」


確かに、リフィルの言葉通りクレアは、クラトスの返事次第では魔術を発動させる気でいた。

自身の力だけで太刀打ち出来る相手でないことは重々承知していたのだが、親友を攫われたという焦燥感に襲われ、その上「一人にしない」という約束を守ることが出来なかった自分に酷く苛立ち、あのような軽率な行動をとってしまった。


「今回は何も起こらなかったけれど、もしものことがあったらどうするつもりだったのかしら?」

「…ごめん、なさい…」

「あなたの言動一つで他の仲間がどうなるのか、今一度じっくり考えてから行動なさい」

「…はい、先生」


優しく厳しい。諭すように言い聞かせるリフィルの言葉に、クレアは震える声で返事をした。

ぽつり、と透明な雫が地面に吸い寄せられたその時、クレアは自身の頭を撫でる温かな感触に気付く。


「今はもうあなた一人の命じゃないの。勿論それはロイドやジーニアス、コレットだって同じよ」


自身の勝手な行動で仲間に迷惑を掛けて、指摘されるまでそのことに気が付かないなんて。

…でも、ごめんなさい先生。それでもまだ私は、私の気持ちは――。


「コレットを、助けたい…!」

「…分かっていてよ」


あなたはそういう人だもの、と柔らかく微笑んだリフィルは、泣き崩れてしまったクレアの身体を優しく抱き締めた。


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