「…ロイド、プレセアを頼めるか?」
成す術なく仲間を攫われてしまった悔しさと虚無感とに囚われていたロイドを現実の世界に引き戻したのは、リーガルの一声だった。
皆の視線を一斉に集めたロイドは、ポケットから加工された抑制鉱石を取り出す。
糸の切れた操り人形のように立ち尽くすプレセアの胸元に装着させると、少しの距離をとって様子を窺った。
「……?」
瞼の奥から現れたのは、意識の光が燈った大きな瞳。
しかし、一度、二度瞬きをして周囲を見回すプレセアの顔には、戸惑いの色が浮かんでいた。
「…私、何をしているの?……っ、パパは!?」
制止する間もなく一行の間を擦り抜けたプレセアは、一目散に扉へと向かう。
後を追う皆の耳に、恐怖と絶望の悲鳴が届いた。
再び腐臭の漂う部屋へと足を踏み入れた一行の視線に映るのは、弱々しく首を振る少女の姿。
「私……私、何をしていたの…?……いやああああ…!」
「…パパの埋葬を手伝って下さって、どうもありがとうございました」
ここには立派な棺も供え物も存在しないが、長い年月を経た今、プレセアの父は漸く土に還ることが出来た。
せめてもの餞別にと、クレアは村の周辺で摘んで来た小さな白い花を手向ける。
「ねぇ、プレセア…。どうしてあんなエクスフィアを付けていたの?」
「…ヴァーリという人から貰いました。病気のパパを……助けたかったんです。パパの代わりに働きたくて、斧を使えるようになりたかった。…そうしたら、ヴァーリがロディルを紹介してくれて、サイバックの研究院に連れていかれたんです」
墓碑を見つめながら一行に説明する途中、リーガルが低く唸るような声を上げた。
そのただならぬ気配と普段は見せない怒りを噛み殺したような表情に、仲間達は皆たじろぐ。
どうやら彼とヴァーリという人物の間には、言葉で語ることの出来ない何かがあるらしい。
「…プレセア、君には姉がいなかったか?」
内側から溢れ出る感情を無理矢理押さえ込み、リーガルは問う。
しかし、プレセアから返ってきた言葉は期待していたものと違った。
いません、その一言に今度はリフィルが訊ねる。
「他にご家族はいないの?」
「妹が一人。奉公に出てそれきりです。ママは、私が子供の時に亡くなったから…」
「子供の時って…。今も子供でしょーよ」
ゼロスに指摘され、プレセアは自身の両手を見つめる。
大人のものではない小さなそれを見て、彼女はぎこちない返事をした。
「成長しない」その言葉がクレアの脳裏に蘇る。
「とにかく、身寄りがないならこの村に一人で置いておく訳にはいかないね」
「そうね。村の人はプレセアを避けているし…」
「あの……私、皆さんについていきたいんです。…駄目でしょうか?」
飛竜が消えていった空を見上げ、再び一行を向いたプレセアの瞳には、確固たる意志が宿っていた。
「…コレットさんが連れ去られたのは私のせいです。だから、コレットさんを助けるお手伝いをさせて下さい」
「便乗するようだが……私も連れていってくれ。お前達の敵は、私の因縁の相手でもあるようだ」
プレセアとリーガル。二人の言葉を受け止め、ロイドは大きく頷いた。
「勿論だ。コレットを助ける為にも、二人の力を貸してくれ!」
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