目的地であるアルテスタの家は、オゼットを抜けてすぐの場所にあった。

崖をくり抜いて出来た洞穴のような外装に、質素な造り。

しかしそれらは決して手を抜いて造ったものではないと、扉に刻まれた模様の一つ一つから熱意が伝わってきた。


「どちらサまでスか?」

「あの、ここにドワーフが住んでいると聞いたんですけど、会えますか?」

「マスターアルテスタへご面会でスね。どうゾ」


クレア達を案内してくれた彼女の名前は『タバサ』というらしい。

腰まである若草色の髪は綺麗に編み込まれ、変わったデザインのワンピースを身に纏っている。

二の腕まである手袋を嵌めた手で部屋の奥を差し示すと、そこに小柄な老人が腰掛けていた。


「何じゃ、お前達は」


一行の気配を察知したのか、老人は背を向けたままぶっきらぼうに言い放つ。

ロイドの義父、ダイクを彷彿させるその後ろ姿に、クレアは思わず懐かしさを覚えた。


「俺、ロイドって言います。サイバックのケイトから教えてもらって、プレセアのことで来ました」

「…帰れ!あの子のことはもう沢山じゃ、出ていってくれ!」

「そんな、話だけでも…!」


アルテスタは声を荒げ、狼狽える一行を工房から追い出すようにとタバサに命じる。

結局成す術なく客間へと逆戻りした一行は、それぞれに不満を訴えていた。

ある者はアルテスタの態度に憤慨し、ある者はプレセアを助ける手掛かりだけでも、とタバサに懇願する。


「ソこまでおっシゃるのなら、抑制鉱石を探スと良いでス」

「プレセアの要の紋は抑制鉱石じゃないのか?」

「はい。あれは…」

「タバサ!何をしている!奴らを追い返せ!」


工房から乱れ飛んできたアルテスタの怒号に、タバサはぎこちない動作で頭を下げる。


「スみまセん、戻らないと!また今度来て下サい。アルテスタサまを説得シてみまスから」


若草色の少女は、華奢な見た目にそぐわぬ力で一行を押し出し、工房へと駆けていった。


「抑制鉱石って、どこにあるの…?」


消え入りそうな声で言ったジーニアスの問いに答えたのは、思い掛けない人物だった。


「アルタミラからユミルの森へ向けて斜めに続く一連の鉱山で採れる……と聞いた。もしもプレセアに要の紋を作ってやるのなら協力させてほしい。私は、お前達を鉱山に案内出来る」

「あんた、プレセアとどういう関係なんだ」


あまりに流暢な説明に違和感を抱いたロイドは、提案者であるリーガルに問う。

刹那の沈黙が流れた後、彼はゆっくりと口を開いた。


「関係は……ない」

「その割には随分と気にしているようね」

「抑制鉱石はエクスフィア鉱山の比較的表層で採掘される。私が知っている鉱山は、ここから海を越えた南の大陸だ」


リフィルから投げ掛けられた言葉に肯定も否定もせず、リーガルは淡々と説明を続ける。

ある程度までの話を聞くと、ロイドとジーニアスが一目散に駆け出し、コレットとクレアが慌ててそれに続いた。

海という単語を耳にして青ざめたリフィルを引きずり、しいなもそれに続く。


「…ところで、ずっと気になってたんだけどよ。アンタと俺、どっかで会ったことないかなぁ」


どこか含みのあるゼロスの問いにも、リーガルは顔色一つ変えることなく彼の横を通り過ぎた。


「…無視かよ。冷てーなー」


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