「我らの頭領イガグリ老は病の為、この副頭領タイガがお相手つかまつる」


藁を編んで作られた敷物の上、端座の体勢で一行を迎えたのは現在のミズホの里を束ねる副頭領タイガ。

テセアラでもシルヴァラントでも目にしたことのない独特の装束に見を包んだ彼は、鋭い眼光で一行を捉える。


「しいながお主らを殺せなんだことによって、我らがミズホの民はテセアラ王家とマーテル教会から追われる立場となった。これはご理解頂こう」

「そんな…。本当なのか?」


ロイドの問い掛けに、タイガの斜め後ろに控えるしいなは気まずそうに視線を逸らした。


「シルヴァラントの民よ。お主らは敵地テセアラで何をするというのか?」

「…俺も、ずっとそれを考えてた。ある人に、テセアラまで来て何をしているのかって聞かれて、俺はどうしたいのかって」


フウジ山岳でのクラトスの言葉が、皆の脳裏に蘇る。


「…俺は、皆が普通に暮らせる世界があれば良いって思う」


そこで一旦言葉を区切ったロイドは背後の仲間達を一瞥し、再びタイガに向き直った。


「誰かが生贄にならなきゃいけなかったり」


コレットの肩がぴくりと震える。


「誰かが差別されたり」


セイジ姉弟が視線を落とした。


「誰かが犠牲になったり」


クレアは胸元のエクフィアに手を翳す。


「そんなのは…嫌だ」

「お主は理想論者だな。テセアラとシルヴァラントは互いを犠牲にして繁栄する世界だ。その仕組みが変わらぬ限り、何を言っても詭弁になろう」

「…だったら仕組みを変えればいい!この世界はユグドラシルってヤツが作ったんだろ!人やエルフに作られたものなら、俺達の手で変えられるはずだ!」


興奮のあまり立ち上がって熱弁を奮うロイドに対し、あくまで静かに言を告げるタイガ。


「まるで英雄ミトスだな。けして相容れなかった二つの国に共に生きていく方法があると諭し、古代大戦を終結させた気高き理想主義者。お主はそのミトスのようになれると言うのか?」

「俺はミトスじゃない。俺は俺のやり方で、仲間達と一緒に二つの世界を救いたいんだ」


真っ直ぐで汚れのないロイドらしい言葉に一行は笑みを浮かべ、互いに顔を見合わせる。

しかしそれは彼らだけではないようで、頑として表情を崩さなかったタイガの口元が、僅かに緩んでいた。


「…なるほどな。古いやり方には拘らないという訳か。では、我らも新たな道を模索しよう」

「副頭領、まさか…」


一言も発さず事の成り行きを静観していたしいなが、驚きと嬉しさが入り混じった表情でタイガに問い掛ける。


「うむ。我らは我らの情報網でお主らに仕えよう。そのかわり、二つの世界が共に繁栄するその道筋が出来上がった時、我らは我らの住み処をシルヴァラントに要求する」

「要求するって言ったって、俺に決定権がある訳じゃ…」


困惑顔で仲間を見回すロイドに対し、タイガは優しい笑みを浮かべた。


「なに、我らミズホの小さな引っ越しをお主らが手伝えばそれで良いのだ」


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