時刻は白昼、にも関わらずサイバックの北東に位置する《ガオラキアの森》は暗闇に包まれていた。
鬱蒼と生い茂る木々には様々な太さの蔓が絡まり、より一層不気味さを醸し出している。
「すご〜い!暗いねぇ〜!」
「ここ、ぽかぽかしてて気持ち良いよ〜」
「二人共、緊張感ねーなぁ…」
薄気味悪いこの場に不釣り合いな雰囲気で言葉を交わしているのは、コレットとクレア。
彼女らの年齢であれば、恐ろしさのあまり腰を抜かしたり、泣き出してしまう反応が妥当だと思われるのだが。
そんな仲間達の考えを察する素振りもなく、二人は木漏れ日を浴びていた。
「!」
不意に、自身の背中に手を伸ばしたコレットがチャクラムを構えて森の奥に視線を向けた。
「おおっと…教皇騎士団サマかよ」
肩を竦めて溜め息をつくゼロスの目前へ、一人の騎士が大きく踏み出す。
「神子ゼロスさま。教皇さまは貴方が邪魔なのだそうですよ」
「そんなこたぁガキの頃から知ってるさ」
腰に提げた短剣に手を翳し、ゼロスは彼らとの距離が最も近い二人の少女をさりげなく背に庇う。
先頭の騎士が武器を構えると、残りの騎士達もそれに倣って各々の武器を構え始めた。
「では話が早い。死んでもらいましょう」
セイジ姉弟の得意とする広範囲に判定が及ぶ魔術を駆使し、難なく教皇騎士団を撃破したクレア達一行。
応援を呼ばれる前に森を抜け出そうと、急ぎ足で出口へ向かう。
差し込む光の量が少しずつ増え最後の分かれ道に差し掛かったその時、ロイドと並んで先頭を歩くコレットが立ち止まった。
彼女は人差し指を唇に宛て、静かにという合図を皆に送る。
「何か…遠くから足音が聞こえる…。沢山、いるみたい…。あっちから聞こえるよ」
そう言ってコレットが指差したのは、アルテスタが住んでいる方向の出口だった。
「コリンを偵察に向かわせるよ」
しいなが懐から取り出した符を翳すと、煙幕と共に人工精霊コリンが召喚され、三回ほど尻尾を揺らしてその姿は掻き消えた。
その直後、一人の囚人が一行の目前に降り立つ。
「こいつ、メルトキオの下水道にいた奴だ!」
「次から次へと教皇の奴!そんなに俺さまが邪魔かっつーの」
瞠目するジーニアスを尻目に、ゼロスは腰の短剣へて手を伸ばす。
しかし男の視線は武器を構えるロイドらではなく、虚ろな瞳で自身を見つめるプレセアにのみ注がれていた。
不思議に思ったクレアが詠唱を破棄して男に訊くと「その娘と話がしたいだけだ」と言う。
「プレセアと?」
「冗談じゃない!ボクらの命を狙ってたくせに」
「他の者達は知らないが、少なくとも私はお前達の命など狙っていない。私が命じられたのはコレットという娘の回収だ」
小首を傾げて自身を指差すコレットに、男は「しかし」と、今はその意志がないことを告げる。
「プレセア…と言ったか?その娘と話をさせてくれ」
男の紳士的な態度を見、僅かに緊張の糸を解いたロイドとコレット。
それを了承の意と捉えた男は一行を刺激しないよう、慎重に一歩を踏み出した。
「エクスフィア!?お前も被害者なのか!」
プレセアの胸元で光り輝くエクスフィアを見るや否や、男は恐ろしい形相を浮かべ眦を吊り上げた。
拘束された両手を朱色の宝石へと伸ばしたその瞬間、眩い光が男を捕縛する。
「…えっと、あの…ごめんなさい!」
「悪く思わないどくれよ」
光属性の魔術フォトンを応用して捕らえた男の首筋に、しいなの手刀が入る。
男は短い悲鳴を声を上げた後、膝を折ってその場に崩れた。
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