「…街中でお前とやり合うつもりはない」


サイバックへと到着した一行の目前に現れたのは、共に旅をしていた頃と同じ濃紺の衣装を身に纏ったクラトスだった。

彼は、抜刀したロイドに対して愛刀を構える様子はなく、腕組みをしたままコレットの真横へと歩みを進める。


「再生の神子、生きたいと思うのならその出来損ないの要の紋を外すことだ」

「…嫌です。これはロイドが私にくれたものだから、絶対に外しません」


鋭い鳶色を真っ直ぐに捉え、コレットは怯むことなく言葉を紡ぐ。

ペンダントを両手で包みクラトスを見上げるその瞳からは、強い意志が感じられた。


「…馬鹿なことを」


つい、とコレットから視線を逸らしたクラトスは、それだけを言い残して一行の目前から姿を消した。









「約束通り、仲間を助けてプレセアを連れて来た」


以前セイジ姉弟を救出する際に利用した抜け道を使い、ケイトらハーフエルフの研究員が勤務、否、監禁と称しても語弊はないのだろう、王立研究所の地下室へと辿り着く。

突然の来訪者にケイトを始めとした研究員達は皆、驚きを隠せない様子だった。


「…間違いないわ。エルフの血と人間の血が融合した、この不思議なマナ。ハーフエルフが仲間だっていうのは本当だったのね」


セイジ姉弟を見比べ、ケイトは自身に言い聞かせるように呟く。

彼女ら研究員は、まさかクレア達一行が約束を守るとは思っていなかったのだ。


「話は聞いていてよ。プレセアはクルシスの輝石を体内で作らされているとか?」

「ええ、そうよ。私達はエンジェルス計画と呼んでいるわ」


ディザイアン五聖刀が一人、クヴァルの口から聞いたことのあるその名称に、ロイドは大きな鳶色を見開いた。

しかし今はプレセアの解放が優先だと、沸き上がる怒りを堪えケイトの話に耳を傾ける。


「あのエクスフィア自体は珍しい物ではないの。ただ、要の紋に特殊な仕掛けがしてあって、本来なら数日で行われるエクスフィアの寄生行動を数十年単位に延ばしている。それで、エクスフィアはクルシスの輝石に突然変異することがあるらしいわ」

「まさか…プレセアの感情反応が極端に薄いのは、エクスフィアの寄生が始まっているからなの?」


リフィルの問いにケイトが頷くと、胸の前で手を組んだコレットが彼女に問う。


「このままプレセアを放っておいたら、どうなってしまうんですか?」

「寄生が終わると、後は…死んでしまう」


気まずそうに一行から視線を逸らしたケイトは、ずれてもいない眼鏡を神経質そうに直す。


「…約束だ。プレセアを助けてくれるな」


ロイドの問いにケイトは無言のまま頷いた。


「ケイト!そんなことをしたらお前が…」

「約束は約束よ。…彼らは、ハーフエルフを差別しなかった」


制止をかけた男性研究員を見据える深緑色の瞳に、迷いは見られない。

彼はケイトの肩を離し、溜め息混じりに「分かった」と呟いて自身の持ち場に戻った。


「プレセアを助ける為には、ガオラキアの森に住んでいるアルテスタというドワーフを訪ねると良いわ」


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