「待ちくたびれたぞ」
グランテセアラブリッジにてクレア達一行を迎えたのは、精霊研究所にて一度顔を合わせたしいなの幼なじみ、くちなわ。
彼は先日と同じく緋色の服に身を包み、目から下を覆面で隠している。
「これがエレカーだ」
くちなわが指差した方向に目を遣ると、水面に漂うエレメンタルカーゴ、通称エレカーが一行の目に留まる。
研究所で聞いた話によるとエレメンタルカーゴは空気中のマナから地のマナを取り込み、それを大地に噴き出すことで生まれる『反発の力』を推進力にしている、とのこと。
今回一行が利用するエレカーは、本来地のマナを取り込む部分に水のマナを取り込んで水上を走るよう、改造が施されているらしい。
「よーし、ロイドくん。ウィングパックを使ってみ?」
「えっと…こうか?」
ゼロスに促され指の第一関節ほどあるカプセル状の物体、ウィングパックのボタンを押すと、エレカーの姿が跡形もなく消滅した。
「すげー!消えたぞ!」
「ねぇロイド、私もやってみたい!」
「私も私も〜!」
ウィングパックを手渡し、ロイドは二人の少女と場所を交代する。
「コレット、次はボクに貸してね!」
服の裾を掴んで声を弾ませるジーニアスに、コレットは「うん!」と満面の笑みで返す。
「でひゃひゃ!まだまだお子さまだな〜!」
楽しそうな彼らを、否、出たり消えたりを繰り返すエレメンタルカーゴを見つめる視線が一つ。
「…どうして見覚えがあるのかしら」
「…リフィルさん?」
首を傾げて自身を覗き込む生気のない瞳にリフィルは言葉を濁す。
プレセアにとって特別興味をそそる出来事ではなかったのだろうか、彼女はそれ以上詮索することなく、青々と広がる海に視線を戻した。
「…燥ぐのはそのぐらいにして、そろそろ出発したらどうだ」
未だ楽しそうにエレカーを出し入れするロイド達に、見兼ねたくちなわが口火を切った。
覆面で隠してはいるものの、少しばかり呆れのような表情が見て取れる。
「…えいっ!」
ウィングパックを空高く翳したクレアの腕を引いたゼロスは、我先にと現れたエレカーに向かって駆け出した。
「俺さまとクレアちゃんが一番乗り〜!」
「狡いぞゼロスっ!」
仲間達もそれに倣い次々と機体に乗り込む。
「さあ行こうか。目指すはサイバックだよ!」
気分が高揚しているのか、勢いよく甲板に足を置いたしいなは街のある方角を指差した。
おーっ!という威勢のいい返事を合図に出発しようとしたその時、くちなわが懐から小さな巾着のようなもの取り出し、しいなの前に差し出す。
「…お守りかい?」
「ああ。気をつけてな!」
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