当初の目的であったレアバード回収の計画こそ叶わなかったものの、思わぬ形でそれ以上の収穫、コレットの心を取り戻すことが出来た一行は、しいなの提案によりメルトキオに向かうこととなった。


「あのねコレット!テセアラに到着した時、私とコレットだけが風に飛ばされてね…!」


薄暗い通路に、楽しげな少女の声が響く。

先刻目的地に到着した一行だったが、街へと続く門は固く閉ざされており、その両脇には武器を携えた騎士が構えていた。

それを見て焦るロイド達を余所に、ゼロスがちょいちょいと手招きをする。

そうなるだろうとあらかじめ予測していた彼の案内により、一行は下水道からの侵入を試みたのだった。


「…私が夢に見ていた天使さまはね、きっとゼロスのことなんだ」


声を落としてコレットに耳打ちすると、彼女は少しだけ驚いたような表情で前を行く真紅を一瞥する。

ふと、その視線に気付いたのか、二人を振り返ったゼロスがにへらと微笑んだ。


『…あっ』


二人の声が綺麗に重なると、手を振っていたはずの彼が突如視界から消える。

短い悲鳴に気付いた仲間達が各々の武器を構え目を凝らした先、暗闇から徐々に姿を現したのは長く伸ばされた濃青の髪を腰の辺りで緩くまとめた男。


「動くな…動けば神子から死ぬことになる」


筋骨隆々とした身体を強調するかのように下げられた深緑色のパンツ。その足元には、分厚い鉄製の板がベルトで固定されている。

しかし、一行の視線を最も引いたものは彼の手首嵌められている黒鉛の手枷。

――罪を犯した象徴だ。


「ろっ、ロイドく〜ん!俺さまを見捨てたら化けて出るぞ〜!」

「…今、猛烈に見捨てたくなったぞ」


男に踏み付けられ身動きの取れないゼロスが猫撫で声で助けを求め、ロイドと共に緊迫した状況にそぐわないやり取りを交わす。

すると、仲間達の間を縫って走り出した桃色の少女が巨斧を構えて男に肉薄した。


「!」

「…裂旋斧」


プレセアの放った強烈な一撃を回避した男は、バックステップで一行との距離をとる。

その間漸く地面と別れを告げることの出来たゼロスは、ロイドの背後に回り込み、彼の背中に凭れ掛かった。


「た、助かった〜!」

「………」


自身に白眼視を向ける少年を気にすることなく、ゼロスは更に体重を掛ける。


「お前は…っ!?」


先程までの冷静な彼とは違い、プレセアの顔を見るなり驚愕の色を露わにした男。

そこに生じた僅かな隙を突き、ジーニアスが魔術を発動させる。


「…ぷぷ、プレセアに近付くなっ!」


けんだまの切っ先から出現した三つの火球が迫ると、男は超人的な跳躍を見せ階段の踊り場へと跳び上がる。

そこで既に臨戦体勢の一行を目の当たりにし分が悪いと勘付いたのだろう、男はその場から姿を消した。


「助かったみてぇだな…」

「うん、良かったね。みんな無事で」


ほっと胸を撫で下ろすロイドに、コレットが微笑み掛ける。


(…プレセアと知り合い、なのかな…?)


ちらりと桃色の少女を一瞥するも、彼女の表情からそれを読み取るのは不可能に近いだろう。

クレアは、天井の隙間から漏れる僅かな光に目を細めた。

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