世界再生の旅には、クラトスとリフィルが同行することになった。ロイド達も同行を願い出たのだが「聖堂の戦いとはわけが違う」と、クラトスに一蹴されてしまった。
村長もまた彼の意見に同じらしく、ロイド達は反論する間も与えられないまま家を追い出されてることに。
クレアはそんな彼らの姿を、二階の窓からぼんやり眺めていた。
ベッドに腰掛ける彼女の瞳は、どこか悲しげだ。
「ごめんね、二人とも」
「別にお前が謝ることじゃねぇだろ」
「そっか、ごめんね」
「あのなー。…まあいいや」
「そうだ。コレット、お誕生日おめでとう」
「!」
「クッキー焼いてきたよ。明日旅に出ちゃうことが分かってれば、もっとちゃんとしたもの用意してたんだけど…」
「ううん。ジーニアスのクッキーおいしいから大好きだよ。どうもありがとう〜」
ジーニアスから受け取った薄桃色の包みを顔の近くに持っていくと、甘い香りが肺いっぱいに広がった。
「さくさくしておいしいんだろうなぁ…」きっとコレットはこんなことを考えているのだろう。その証拠に、緩んだ頬を隠そうともせず楽しそうに微笑んでいる。
「で、ロイドは?コレットに首飾りを作ってあげる約束だったよね」
「…や、やば」
「…まさか忘れてたりして」
「あ、あとちょっとで完成なんだ。明日、旅立ち前に渡すよ。…ホントだぞ!」
「嬉しい!それじゃあ、出発時間が決まったらロイドの家まで知らせに行くね」
「でも危なくないか」
「私、神子として旅立つんだよ?だからだいじょぶ。それじゃあね」
ジーニアスから受け取ったプレゼントを胸に、そして、ロイドとの約束を胸に、コレットはドアを潜った。
* * *空は青く澄み渡っていて雲ひとつ見つからない。優しい風が頬を撫でて、時おり木の葉をさらってゆく。
クレアの視線の先には、救いの塔が映っていた。
見ているだけなのに、なんだか胸がもやもやする。…みんなが祈りを捧げる救いの象徴なのに、私はなにを考えているんだろう。
ふと、鮮やかなミントグリーンが視界いっぱいに広がった。
「…コレット」
「どしたの?」
「………」
コレットは微笑みながらクレアの隣に腰掛けた。そして先ほどクレアがしていたように、空を見上げる。
彼女はなにも言わない。
風の音だけが、クレアの耳に届いた。
隣に腰掛けるコレットを一瞥すれば、彼女は真っ直ぐ空を見上げている。
クレアも同じように空を見上げ、後ろ手に隠していた小包をコレットの目前に差し出した。渡すべきか渡さないべきか散々迷ったそれは既にしわだらけになっていて、クレアは思わずはっとした。
だけど引っ込めるよりも先にコレットが柔らかく微笑んでくれたから。嬉しそうに受け取ってくれたから。
溢れ出しそうになる感情を堪え、
「お誕生日、おめでとう」
そう言った。
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