甲高い金属音が山岳一帯に木霊する。

ユアンへ向けて放ったロイドの一撃は、二人の間に割って入った人物によって遮られた。


「クラトス!」


特徴的な燕尾を除けば服装こそ違っていたものの、鋭い眼光は共に旅をしていた頃と変わりない。

彼はロイドの双剣を弾き返し、自身のそれを鞘に収める。その様子から戦いにきた、という訳ではなさそうだ。


「退け、ユアン。ユグドラシルさまが呼んでいる」

「くっ…。神子を連れていくのか?」


ユアンの言葉にロイドは武器を構え直し、皆はコレットを守るように陣形を組み直す。


「いや…一時捨て置く。…例の疾患だ」

「…そうか。ロイド、勝負は預けたぞ」


クラトスの言葉に一つ頷いたユアンは、その長いマントを翻して崖へ向かって歩き出す。

すると、彼の背中に天使の羽が出現した。


「くそ!待て、ユアン!」


ロイドの咆哮は虚しく木霊するだけで、既に遥か彼方のユアンに届くことはなかった。


「…お前は何をしているのだ?」


不意に、クラトスが口を開いた。鋭い鳶色がロイドのそれを捉える。


「な、何?」

「わざわざ時空を飛び越えテセアラまで来て、何をしているのだと言っている」

「コレットを助ける為だ!邪魔をするってんなら…」


ロイドが挑発的に双剣へと手を掛けるも、クラトスが自身のそれに手を伸ばすことはなく、組んだ腕を解こうとしない。


「神子を助けてどうなる?結局二つの世界がマナを搾取し合う関係であることに変わりはない」


ぎり、と歯を食いしばる音が聞こえた。恐らくロイドのものだろう。

彼は双剣へと伸ばした片方の手で拳を作って刹那それを眺めた後、クラトスの鳶色を捉えた。


「どうにもならないのか!?この歪んだ世界を作ったのはユグドラシルなんだろ!」

「ユグドラシルさまにとっては歪んでなどいない。どうにかしたければ自分で頭を使え。…お前はもう、間違えないのだろう?」


ロイドは一度作った握り拳を開き、力を込めて再度それを作る。

すると、甲に装備されているエクスフィアがきらりと光った。

強く頷いてクラトスを見据えるその瞳に、迷いはない。


「ああ、やってやる!互いの世界のマナを吸収し合うなんて愚かな仕組みは、俺が変えさせてやる!」

「フ…。精々頑張ることだな」


クラトスは微かな笑みを浮かべると動けずにいたプロネーマの腕を掴み、蒼色の羽を広げて雲の中へと飛び去った。


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