空のように蒼い髪をうなじの辺りで結わえ、長いマントの中に軽鎧を身に纏っているその男は、幾度となくロイドを付け狙ってきたレネゲードの党首、ユアンだった。


「お前達はレアバードを運べ」


彼の背後に控えていた複数の部下が機体の前で投げる動作を行うと、レアバードとその砕け散った部品とが綺麗さっぱりなくなった。

その様子を確認したユアンは一行を、否、ロイドをその翡翠色の瞳で捉える。


「今度こそ貴様をもらい受けるぞ、ロイドよ!」


背中のクレアを隠すように身構えると、ロイドの頬にひやりと嫌な汗が伝った。

抵抗することを見越してか、ユアンの手の平に濃密なマナが収束されていくのが分かる。

もう駄目かと思い顔を逸らすと、自身とその仲間達を包む透明な防御壁が現れた。


「な、何だ…?」


放たれた魔術はそれに弾かれ、逸れた軌道のまま青空に呑まれて消えた。

もしやと思い背中の少女に視線を遣ると、目を瞑ったまま微笑むクレアの姿。


「おはよう、ロイド」


長い睫毛の下から栗色の瞳が覗いたと同時、ぴょん、とロイドの背中から跳び下りる。


「…きゃうっ!」


地面との距離はそれほどないはずなのだが、何故か足をもつれさせたクレアは勢いよくその場に尻餅をついてしまう。

しかし彼女は何が起こったのか瞬時に理解出来なかったようで、数回目を瞬いた後に慌てて立ち上がり、恥ずかしさ故か少し赤らんだ頬でユアンを向いた。


「…私の大切な仲間には、指一本触れさせない!」


直前の出来事もあって今一説得力に欠けるその台詞にユアンは、ふ、と笑みを浮かべる。

確かに、檻の外に居るのは反応が遅れたコレット唯一人。また、彼女は少しも動く素振りを見せない。

状況は一目瞭然、ユアンらレネゲードが有利なのだ。


「おや、ユアンさまではありませぬか」


ユアンともその部下とも違う艶っぽい女の声がどこからか響くと、今まで余裕たっぷりの笑みを浮かべていたユアンのそれが、ぴしりと引き攣った。

クレアがきょろきょろと辺りを見回せば、一人佇むコレットの隣で時空が歪む。

そこから姿を現したのは緑色の髪を持った女性。その身体を包むようにして黄金色の盾がマントのように浮遊している。


「何故このような場所に?」


どこか妖しい雰囲気を漂わせるその女性には見覚えがある。しかし、今一記憶がはっきりしない。

…確か、…シルヴァラントのどこかで…。

記憶の糸を辿っていると、ユアンが連れていた部下達の姿がないことに気付く。


「それは私の台詞だプロネーマ!貴様達ディザイアンは衰退世界を荒らすのが役目だろう!」

「私はユグドラシルさまの勅命にて、コレットを追っておりました。こちらにお引き渡し下され」


プロネーマと呼ばれたその女はちらりとコレットを一瞥すると、葡萄色の唇に微笑みを浮かべた。

寒気立つようなその笑みに、思わず背筋が凍りつく。


「だが、神子を渡す代わりにロイドが私が預かる。それで良いな?」

「そやつに関しての命令は受けておりませぬ故、ユアンさまのお好きになされませ」


ユアンに向かって一礼をしたプロネーマは、焦点の定まらない瞳で唯々一点を見つめるコレットの元へと近付いてゆく。


「コレット!!行くな!」

「逃げて、コレット!」


仲間達の叫びも虚しくコレットの目前にプロネーマが迫る。

コレットの腕を掴もうと伸ばしたはずの手が、ぴたりと止まった。

浮かべていた笑みはいつの間にか掻き消え、冷たく蔑むような視線の先には、きらりと光る黄金色のペンダント。


「何と。クルシスの輝石にこのような粗雑な要の紋とは?」


そう言ってコレットの腕へと伸ばした右手を、彼女の首元へ向かわせる。


「…愚かじゃのう。このような醜きもの、取り除いてくれようほどに」


自身への直接的な攻撃ではないからか、コレットが抵抗することはなかった。

ペンダントを握る指に力が込められ、みし、という軋んだ音を立てて少しずつ変形してゆく。


−−その時だった。


(……え?)


クレアの頭に響いたのは、懐かしいあの声。脳裏に浮かんだのは、待ち侘びたあの笑顔。


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