無事にセイジ姉弟を救出した一行はレアバード回収の為、テセアラ到着時にロイド達が不時着陸したというフウジ山岳に向かった。
強風に煽られてメルトキオに飛ばされたコレットとクレア以外は二度目以降の入山になるものの、切り立つような急斜面を登ることは一度や二度で馴れるものではない。
「ロイドくーん、そろそろ疲れただろ?いい加減背中のクレアちゃんを俺さまに預け…」
「嫌だ」
ぴしゃりとゼロスの言葉を遮ったのは、すやすやと心地好さそうに眠るクレアを背負ったロイド。
早足で通り過ぎようとするロイドの、否、彼の背中で眠るクレアの腰に伸ばされるゼロスの魔手は、コレットが容赦なく叩き落とす。
「俺さまってそんな信用ねぇの?」
コレットに叩かれた手の甲を摩りながら誰となく独りごちると、しいなが呆れた表情でそれに答える。
「普段の行いが悪いからじゃないのかい?」
「いやいやあれは俺さまなりの軽いスキンシップよ〜!」
でひゃひゃと笑いながらしいなの尻を撫でると、強烈な一撃がゼロスの脳天に炸裂する。
「こんのアホ神子!」
「…やっぱり。ゼロスに預けなくて正解だったね」
「…そうね」
まさに自業自得、頭上で星が回っているゼロスの心配をする者はなく、皆はそれぞれの感想を述べながら彼の横を過ぎ去ってゆく。
普段無表情なプレセアさえもが白眼視を向け、前をゆくロイド達の後を追ったのだった。
頂きに到着した一行は、再起動が可能なのかと疑わずにはいられないほど傷だらけのレアバードを発見する。
しかしそこは魔科学の産物といったところだろうか、リフィルによると「高所からの落下にも関わらず大破は免れている」らしい。
果たしてこれほど大きな機体をどのようにして回収するというのだろうか。皆の視線が提案者であるゼロスに注がれた。
「おいゼロス。どうやって運ぶんだ」
「クレアちゃんを抱かせてくれたら教えてやるよ」
「………」
至極真面目な表情で言いきったゼロスに対し、まだ言うか、と皆が呆れた表情を浮かべる。
終いには誰かが溜め息をつく音が聞こえた。
「…え、あの…。冗談のつもり、だったんですけど…」
冷ややかな視線に耐えられなくなったのか、引き攣った笑いを浮かべるゼロスに「あんたが言うと冗談に聞こえないんだよ」と、しいなが告げる。
「きっ、気を取り直して〜!…こっちこっち」
ぱん、と両手を合わせて皆の気持ちを入れ替えようと必死になるゼロス。
その姿の何と痛々しいことか、リフィルは心の中で密かに嘆いた。
彼が一台のレアバードに近寄り、皆を手招きする。
「本当に大丈夫なんだろうな…」
誰かが溜め息混じりにそう呟いた時だった。
仲間達が集合する瞬間を予てから予期していたかのようなタイミングで、盛り上がった地表から檻のような何かが一行を捕らえる。
恐らく魔科学の産物、その上随分と進歩した技術である。それほどの技術を持っているのは…と、咄嗟に巡らせたリフィルの推測は正しかったようだ。
「まんまと罠に嵌まったな」
聞き覚えのある男の声が一行の耳に届いた。
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