「…未知の存在により着地。損傷箇所、無し」

「うへぇ…死ぬかと思った」


ゼロスが溜め息をついた隣へ、コレットは姫抱きしていたクレアの身体を解放する。


「クレア、助かったよ!」

「みんなが無事で良か…、っ!」

「あっ、おい!」


足を縺れさせ、頭から転倒してしまったクレア。

仲間達が急いで駆け寄ると、その表情は心なしか青ざめている気がした。


「クレア、お前…」

「…私のことなら、だいじょぶ。それより、先生とジーニアスを助けないと…!…ね?」


力無く笑うクレアを見、何も出来ない自分にやる瀬なさを覚えながら、ロイドは優しく彼女を抱き起こした。

しかし、そこへ騒ぎを聞き付けた教皇騎士団が引き換えして来る。

一行が軟禁されている間に救援を呼んだのだろう、夥しい数の騎士が各々の武器を構え、その陣形を広げた。


「………」


クレアの身体をコレットに預け、彼女らを背に隠してロイドは抜刀する。

他の仲間達も各々の武器を構え、皆が戦闘体勢へと突入した。


「俺達の仲間を…返せっ!」


ロイドの声が合図となり、戦いの火蓋が切って落とされた。

勢いよく駆け出したがロイドが相手側の陣形へと切り込む。取り囲むように襲撃を仕掛ける騎士の攻撃を屈んで避け、一人の騎士に狙いを定める。


「獅子戦吼!」


獅子を象った闘気がロイドの双剣から出現し、獲物を喰らうかのように容赦なく相手を吹き飛ばす。

余った勢いを回転斬りに繋げ、戦闘における基本、相手を威嚇することも欠かさない。

それでも生まれてしまう隙を狙っての攻撃は、他の仲間がカバーする。共に旅をすることで培った揺るぎない信頼があるからこそ成せる技だ。


「させないよ、炸力符!」


しいなの放った札が、ロイドへと詰め寄った騎士を弾き飛ばす。

多勢に無勢、しかし実力が上回っているのは幾度となく死線をくぐり抜けてきたロイド達の方だった。


「…獅吼、滅龍閃」

「閃空裂破!」


プレセアの巨斧から、ロイドの放った獅子とは違う形のそれが出現する。

その小柄な見た目からは想像出来ないほどの力で相手を薙ぎ倒してゆくプレセアと、敵の斬撃を受け流しながらに詠唱を済ませ、剣術と魔術を見事に使い分けるゼロス。

力の差は歴然だった。

その間に身体を起こしたクレアは、コレットが戦闘に参加しないよう、彼女の左手をずっと握っていた。

天使化している彼女が戦闘に参加すれば戦いは楽になる。が、力の加減が出来ず人を殺めてしまうことだろう。


(…私が戦えない、って理由もあるけど…)


そう、コレットの制御は勿論だが、クレア自身の身体も限界を迎えていた。

あれだけ強力な魔術を連続で発動させたのだ、マナが欠乏しかけている。


(…先生達を助けたら、少しだけ休憩させてもらおう…かな…)


自由になった仲間達と楽しげに会話をしている自分の姿が脳裏に浮かんだ、その時だった。

クレアの視界に映ったのは、ゼロスの背後から奇襲を仕掛けようとする一人の騎士。

長く鋭い鎗を勢いよく振りかざすも、ゼロスが気付く気配はない。


「…っ、ストーン、ブラスト…!」


身体中のマナを振り絞って呟くように呪文を唱えると、騎士の足元から岩石が出現する。

重力に逆らって次々に鎧をへこませるその一つが騎士の鳩尾に命中し、がしゃりという音と共に膝から崩れ落ちた。


(…よかっ、た…。ゼロス、怪我…してない、や…)


辛うじて上体を支えていた肘から力が抜け、クレアは力無くその場に倒れ込んだ。


「クレアちゃん!」


ゼロスが駆け寄るより先に、コレットが彼女の身体を抱き起こす。


「…え、へへ…。ちょっと…疲れ、ちゃった…」

「クレアちゃん…」

「…ごめん、ね…?」


消え入るような声でそう呟いたのを最後に、クレアの意識は闇に閉ざされた。


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