連行されたセイジ姉弟を救出するべく、ケイトらの協力を得てサイバックを飛び出したクレア達一行。
必死の思いで橋を駆ければ、中間地点に差し掛かる場所で教皇騎士団特有の緑の鎧が視界に映る。
「先生!ジーニアス!」
速度を緩めることなく声を限りに叫べば、騎士達がこちらを振り返った。
しかし、彼らは焦った様子を少しも見せることなく、一行を無視して再び歩き始める。
頑張れば…追い付く!そう確信した瞬間、視界がぐらりと傾いた。
「…ふ、にゃああっ!」
グランテセアラブリッジは跳ね橋だ、ゼロスの言葉が蘇る。
もう駄目だと思った瞬間、強い力で腕を引かれた。
「…っと、大丈夫か?」
「う、うん…。でも、先生達が!」
こんな非常時、やけに煩い自身の心音を聞きながら、何か良い方法はないかと思考する。
以前ゼロスから聞いた話によると、操作するレバーは橋の両側、つまりメルトキオに近い位置、またはサイバックに近い位置にあるというのだ。
今から戻っている時間は、ない。
「くそ、足止めするつもりか!飛び越えるぞ!」
「おいおいおい。無茶言うなよ!橋から落ちたら死んじまうぞ!」
ロイドの無謀とも言える発言に、すかさず反論するゼロス。
そうしている間にも、橋は空高く跳ね上がってゆく。
確かに飛び越えるのは難しいかもしれない。でも、このまま放っておいたら先生達の命が…!
「…クレアちゃん!」
気付いたらゼロスの腕の中から抜け出し、無我夢中で走り出していた。
背後から複数の足音が聞こえる。きっと、仲間達が追い掛けてきてくれているのだろう。
「…アツイねぇ」
ゼロスはそう呟くと、先を行く仲間達の後を追った。
「…絶対に、絶対に助けるんだからっ…!」
勢いよく助走をつけ、対岸の橋を目掛けて大きく飛翔した。
しかし、伸ばした右手は虚しく空を裂いただけ、一行は真っ逆さまに落下してゆく。
「…にゃあああああっ!」
堪らず悲鳴を上げると、クレアの身体がふわりと浮いた。
「ふぇ…?」
背中と膝裏に伝わる温かさと、きらきら輝く鱗粉のような粒子。
クレアを助けたのは他でもない、薄桃色の羽を羽ばたかせ虚ろな瞳で顔を覗き込む、コレットだった。
「…ふ、…うっ、コレッ、トぉ…!」
死ぬかもしれないという恐怖から、安堵という温かな感情に変わる。
一滴の涙が、海面に吸い寄せられるようにして落下した。
そこでクレアは気付く、コレットが支えているのは自分一人。他の仲間達は、まだ助かっていない…!
「…悠久の時を廻る優しき風よ――」
袖口で涙を拭い、クレアはゆっくり瞳を閉じた。普段戦闘中に意識しているそこより更に心の奥深くへ、強く強く想いを重ねる。
「我が前に集いて、裂刃と成せ!」
ひゅうひゅうと音を立てて吹く風が、二人の髪を弄ぶ。
「…サイクロン!!」
クレアの言葉と共に、水面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
陣の模様が一際強く光り輝くと、若草色の竜巻が召喚された。
「…と、フィールドバリアー!」
竜巻に包まれた仲間達を護るように、薄い防御壁が彼らの身体を覆った。
轟々と音を立てて渦巻くそれをなるべく橋に近付けるよう、意識を集中させる。
(…今だ!)
すると巨大な竜巻はあたかも始めから存在していなかったかのように跡形なく掻き消え、皆がそれぞれの形で受け身を取り、対岸に着地する。
クレアが発動させた防御壁の効果もあったのか、誰ひとり怪我を負うことはなかった。
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