「…そいつらはテセアラの人間じゃない。シルヴァラントでハーフエルフやドワーフと育った、変わり種だよ」
懐かしい声が部屋中に響き渡った瞬間、ぼん、という何かが弾けるような音と共に、どこからともなく出現した煙幕が濛々と立ち込める。
灰色の煙りの中から姿を現したのは、メルトキオに入る直前に離脱したと聞いていたしいなだった。
「しいな!」
頼もしい仲間の登場に、思わず顔を綻ばせるクレア。
コリン!そうしいなが何かを呼べば、一体どこから出現したのだろうか、狐に似た小さな小動物がその美しい尻尾を一振りし、皆の自由を奪っている拘束具を破壊してゆく。
「どうしてここ…んむっ」
「詳しい話は後だ。ジーニアスとリフィルがメルトキオに連行された。今追いかければ助けられるはずサ!」
クレアの唇に人差し指を立て、早口でそう告げるしいな。
黙ってこくりと頷けば、いい子だね、と囁いた。
「こいつらは親友のハーフエルフを助けに行くつもりなんだ。どーする?ハーフエルフのお姉ちゃん?」
茶化すようにゼロス言えば、女性研究員は自身に強く言い聞かせるよう、違う、そんなことは有り得ない、と首を振る。
「だ、騙されないわ。人間がハーフエルフを助ける訳がない」
「…しかしケイト。上でハーフエルフが二人連行されたって話を聞いたぞ」
「………」
近くに居た男性研究員にそう耳打ちされると、ケイトは口を閉ざした。
眼鏡のブリッジを直し、一行を見回す。
「…良いわ。見逃してあげる。その代わり、そのハーフエルフの仲間を助けたら必ずここへ戻って来て。あなた達の話が本当だったら…」
一旦そこで言葉を切ったケイトは、横目で桃色を一瞥する。
「プレセアを研究体から解放してあげても良いわ」
「…分かった」
「じゃあ…こっちよ。秘密の抜け道があるの」
そう言ってケイトは部屋の隅にある巨大な本棚の前に一行を案内する。
彼女が一冊の本を動かすと棚は音もなく横に動き、そこから小さな通路が出現した。
「ここからサイバックの街へ出られるわ」
「助かる」
「急ぐよ!橋に向かうんだ」
先陣をきって走り出したロイドに続き、しいなとプレセアが走り出す。
「ありがとうございます!」
ケイトに、否、部屋中の研究員達に向かって深々と頭を下げてから、クレアもロイド達の後を追った。
徐々に闇に消えて行く栗色を確認したゼロスは、声を落としてケイトに訊ねる。
「プレセアちゃんの研究ってのは、誰の命令だ?」
「それは…言えない」
それだけ言うと、ケイトはゼロスから目を背けて口を噤んだ。
「教皇、だな」
「………」
沈黙が、ゼロスの判断が正しいことを物語っていた。
不意に、誰かが自身を呼ぶ声が聞こえた。ついて来ていないことに気付いた仲間の誰か、恐らく最後尾のクレアだろう。
「ゼロス!急がなきゃ!」
「了解よー!…やれやれだぜ」
そう呟いて、ゼロスは暗闇の中へと飛び込んだ。
to be continued...
(10.03.30.)
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