一行の目前には、地下研究所へと繋がる分厚い金属の扉。騎士の一人が鍵を開けると、奥から湿っぽい空気と雰囲気が漂ってきた。


「…誰!?」


深緑色の髪をバレッタで留め、恐らく研究院の制服なのだろう、白を基調とした衣服を身に纏っている女性が勢いよく振り向いた。


「ハーフエルフ風情が俺達に声を掛けるな。お前は黙って作業を続けろ」

「こいつらは罪人だ。引き取りに来るまでここに監禁しておけ」


女性研究員は下唇を噛み締めながら騎士達の言葉を耳に入れ、彼らが部屋を後にしたことを確認すると、一行へと歩み寄った。


「罪人ねぇ。折角人間に生まれたのなら大人しくしていればいいのに」


目を細め、擦れてもいない眼鏡のブリッジを神経質そうに直す。

先ほどの騎士達にハーフエルフだと罵られていた彼女だが、廊下ですれ違った研究員達と相違点は、その衣服がひどく煤けている、ということだけだった。

ふと、深緑色の瞳が視界の端で揺れる桃色を捉えた。


「…プレセア?プレセアね?どうしてあなたまでここに!」


普段あまり表情に変化のないプレセアだが、この時ばかりは違っていた。

苦痛で顔を歪めた彼女は、女性研究員の視線から逃れようと、クレアの後ろに姿を隠す。


「…う…来ないで…」

「…プレセアを知ってるんですか?」

「そ、それは…」


クレアの問いに、言葉を濁す女性研究員。

眼鏡のブリッジを直して作業に戻ろうとしたその時、ゼロスが口を開いた。


「王立研究院のハーフエルフが人間の子供もと知り合いねぇ?おかしいじゃねぇか」

「…。その子は、うちのチームの研究サンプルよ。人間の体内でクルシスの輝石を生成する研究」

「クルシスの輝石なんて作れるんですか?」


セイジ姉弟に嵌められたそれよりか幾分か簡素な造りになっている手枷を嵌めた両手で、クレアの服を強く握るプレセア。

そこからは、微かだが振動が伝わってくる。

少しでもプレセアの話題から話を逸らそうと、質問を投げ掛けた。


「作れるわ。理論的にはエクスフィアと変わらない。人間の体内にゆっくりと寄生させて…」

「ふ、ふざけるな!それじゃあ、まるで、ディザイアンがエクスフィアを作っていたのと同じじゃねぇか!」


今まで黙って話を聞いていたはずのロイドが、勢いよく拳を振り上げ、力任せに壁を殴った。

突然の行動に女性研究員は勿論、作業途中であった研究員全員が瞠目した表情でロイドを向く。


「何?何を言ってるの?」

「人の命を何だと思ってるのかってそう言ってるんだよ!」


まるでその言葉が合図だったかのように、女性研究員の眼鏡の奥の瞳が、すう、と細められた。

どこか悲しさを帯びたような、嘲るような眼差しで一行に問う。


「…その言葉、そっくりそのまま返すわ。あんた達人間はハーフエルフの命を何だと思っているの」

「同じだよ。そんなの同じに決まってる。ハーフエルフも人間も生きてるってことに変わりないだろ!」

「皆、同じ命です。優劣なんてありません」


プレセアの両手を自身のそれで包み込むと、クレアはにこりと微笑んだ。

それでも不安げに見上げる彼女の頭を一撫でし、クレアはゆっくり立ち上がる。

狼狽する深緑色を、真っ直ぐに見据えた。


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