「聞かせて頂きましたぞ」
「!」
一行が視線を向けた先、巨大な扉から雪崩れ込んできたのは、メルトキオの王城やその門前で目にした緑色の鎧、教皇騎士団だった。
彼らは威嚇するように各々の武器を構え、天使化したコレットを刺激しないようじりじりと、けれども確実に間合いを詰めて来る。
「テセアラの滅亡に手を貸した反逆者として、神子さまとその者達を反逆者に認定します」
騎士達の中でも一際屈強な印象を与える、金色の鎧を身に纏った男がそう告げた。
ちっ、と軽い舌打ちがクレアの耳に届く。
「随分とタイミングが良過ぎるじゃねぇか。教皇騎士団さんよぉ」
自身らを取り囲む騎士達を一瞥したゼロスが挑発的に発言するも、彼らがそれに乗ることはなかった。
「教皇さまのご命令です。神子さまに王家への反逆の疑いがある為、監視せよと」
「…よーく言うぜ。どっちが反逆しようとしているのやら」
「取り押さえてサンプルをとれ。天使の方はいい。下手に近寄ると殺されるぞ」
騎士達が武器を下ろし、コレットを除いた六名を後ろ手に捕える。
締め上げられた手首に、ひんやりとした何かが宛がわれた。
「痛ぇ!何するんだよ」
「…罪人は捕らえる前に生体検査を受けるんだよ。こっちには身分制度があるからな。ハーフエルフは見た目が人間と変わらない奴もいる。そいつらを確認する必要があるんだ」
ま、俺さま達には関係ないけどな、ゼロスが呟いたその時、二人の騎士が悲鳴に似たような声を上げた。
「…た、大変です団長!適合しました!」
皆の視線が声の主、否、その先の人物へと注がれる。
その先にいたのは、銀髪の姉弟−−リフィルとジーニアスだった。
「やはりな。教皇さまのおっしゃる通り、王城で騎士の病を治癒した不可思議な術は、お前達ハーフエルフの仕業だったのだな」
王城で騎士を治療…?…それって…!
クレアの脳裏に蘇ったのは、しいなからの手紙を国王に渡す為半ば強引に王室に侵入したあの日、ロイドが気絶させた騎士を治療している、自分の姿。
…私が、余計なことをしたからだ…!
「…ちっ、違います!私がその騎士さんを治療したんです!だから、先生達は何も関係ない!」
「嘘をつけ。現にお前は適合していないではないか」
「…それは、」
「ハーフエルフだと?お前ら…本当なのか?」
ゼロスの声が言葉の続きを遮る。怒気のようなものを含んだそれに、思わず怯んでしまった。
刹那の沈黙が流れた後、リフィルが口を開いた。
「…そうよ」
「姉さん!」
たった一言なのに、その言葉は酷く重みがあるように感じられた。
「今更隠しても仕方のないことだわ…」
その場凌ぎで誤魔化せるほど、こちらの技術は甘いものではないのだろう。
リフィルはゆるゆると首を振り、憂いを帯びた瞳で弟を向いた。
「低能なハーフエルフが図々しい身分詐称だ」
「何だと!ハーフエルフだろうが何だろうが、そんなの関係ないだろ!」
「ハーフエルフの罪人は例外なく死罪だ。二人を連れて行け」
憤慨するロイドを余所に、手枷を嵌められた姉弟と彼女らを連行する騎士達が扉に向かう。
クレアが縛めを解こうと抵抗するも、彼女の腕を捕える騎士の力が、より強いものへと変化しただけだった。
「先生!ジーニアス!」
扉の閉まる音と残された仲間達の悲鳴が、悲痛なまでに反響した。
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