「こんな形でお前に誕生日プレゼントをやるとは思わなかったな…」


首飾りのチェーンを握り締め、ロイドは柔らかな金糸の上からそれを掛ける。

ふわり、コレットの香りが身体を巡ると、真っ赤な瞳が長い睫毛に覆われ、彼女は瞳を閉じた。


「…コレット、俺が分かるか?」


ロイドの呼び掛けにコレットの肩がぴくりと揺れる。それに気付いたクレアは、逸る気持ちを無理矢理抑えて彼女の様子を見守った。

どうやって迎えようか、どのような言葉を掛けようか。期待に胸を膨らませていると、コレットの双眸がゆっくり開かれる。

仲間達の視線が注がれるそこから現れたのは、血のように赤い瞳。本来の優しいミントグリーンではなかった。


「駄目みたいだ…」


深い溜め息と共に、ロイドはがくりと項垂れる。

王立研究院で「要の紋さえあれば戻るはずだ」と言われたのにも関わらず、コレットの心は此処にはない。やはり自身の力量では力不足だというのか…。

それ相応の役割を果たせていない首飾りが、照明機具に照らされて見事に光り輝く。効果がみられないのならいっそ外してしまおうと、チェーンに手を伸ばした時だった。


「駄目だよ」

「え…」

「…コレット、きっと喜んでるから…外しちゃ駄目だよ。…ね?」


躊躇しつつも伸ばした両手を下降させると、クレアはにこりと微笑んだ。


「ありがとう、ロイド」


今のコレットには言葉も気持ちもないけれど、きっと心の奥底で喜んでいるんだと思う。

だってコレットはずっと、ずっと…、ロイドからの誕生日プレゼントを心待ちにしてたんだよ?

神子としてじゃない、一人の女の子として。

だから…。


「…コレット、」


懐かしい思い出に浸るのはそこまでに、今やるべきことを考える。

コレットを助けること、クレアはそう呟いて気持ちを切り替えた。皆を見回して案を持ち掛ける。


「ダイクおじさまに、力を借りたらどうかな?」

「でもおじさんはシルヴァラントにいるんだよ?それに、レアバードは燃料切れだし…」

「この研究院の人達なら何か良い方法を知らねーかな」


頭を捻ってああでもないこうでもないと知恵を出し合うクレア達の間に、慌てた様子のゼロスが割って入る。


「俺さまはお前達の監視役なんだぞ?シルヴァラントに帰るなんて許す訳ないだろーが」

「監視役なら着いて来れば良いじゃん」


慈悲深い神子サマ、と言われてしまえば、あまりに単純かつ明快な答えにゼロスは思わず面食らう。

そこで僅かに反応が遅れてしまったのが良くなかったのだろう。その隙を逃さず、セイジ姉弟が畳み掛けた。


「あなたはフェミニストなのでしょう?」

「コレットを助ける為だもん。黙っててくれるよね〜」


痛いところを突かれ、たじろぐゼロス。確かにコレットのような可憐な少女を放ってはおけない、というのが彼の本音だ。

しかし今ここで許可をおろせば、後々面倒に巻き込まれることは目に見えている。

心の中で葛藤していると、溢れそうなほどの涙を溜めたクレアが目前に迫っていた。彼女は、潤んだ栗色でゼロスに懇願する。


「…お願い、ゼロス」


真っ暗な世界に微かにだが光が差し込んだのだ、この機会を逃したら、今度こそコレットは元に戻ることが出来なくなる。

クレアは胸の前で手を組み、ゼロスの瞳を真っ直ぐ見据えた。


「…そ、そこまで言われたらチクる訳にはいかないでしょーよ」

「…ありがとう!」


クレアの顔がぱあっと輝いたとほぼ同時、堪えていた涙が頬を伝った。指の腹でそれを拭い取ったゼロスは、少しだけ困ったような表情を浮かべている。

仲間達が歓喜の声を上げた瞬間、だった。


「神子さま」


まるで終わりを告げる鐘の音のように、冷たい男の声が廊下に響いた。














to be continued...

(10.03.24.)


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