コレット救済の第一歩は「要の紋を見つける」こと。貴重な手掛かりを得た一行は、王立研究院を後にした。
サイバックの街を練り歩くと、リフィルが何度も立ち寄りたいと願い出ていた巨大な図書館の隣、小さな出店があることに気付く。


(…あれ?このお店、さっきはなかった気が…)

「なんだよ。売ってるのはジャンク関係ばっかりじゃね〜の」


クレアが首を傾げる隣で、至極つまらなさそうに商品を眺めるゼロス。彼がそう言ってしまうのも無理はない。店の中には壊れかけの木箱や回転する謎の物体、怪しげな人形と、得体の知れないものばかりがそこら辺に置き散らかされていたからだ。
しかしその一方で、酷く興奮した様子の人物が、ここに一人。


「素晴らしい!素晴らしいぞ、ここは!ああ、これは古代魔科学のカーボンか!」

「…まただよ」


遺跡モードへ突入してしまった姉を一瞥し、弟は深い溜息をついた。次々に店の商品を手に取っては恍惚とした表情でそれらを眺めるリフィルを宥めようとしたその時、クレアが喜々として声を上げた。


「ロイド!…これ、要の紋じゃないかな?」


そう言ってクレアが差し出した手の平には、小さな黄金色の鉱石が乗せられていた。ロイドはそれを拾い上げ、ゆっくりと光に翳してみる。大きな鳶色を細めて反射の具合を確認し、グローブを外して手触りを確認する。
すると、眉間に寄せられていた皺がみるみるうちになくなった。その表情まま店主に向き直り、声を弾ませて値段を問う。


「これ、いくらだ?」

「そうだなぁ…。十万ガルド、だな」


店主は嫌らしい笑みを浮かべながらロイドの問いに答える。どうやら、一行の足下を見て儲けようという魂胆らしい。当然そのような大金を所持している訳がなく、クレアが値段の交渉を試みようと口を開く。
が、彼女の口から言葉が発せられるより一足先、鮮やかな紅色がクレアを庇うようにして前に出た。


「よし、今すぐここの責任者を呼んで来て、こいつが商売出来ないようにしてやろう」

「な、なんだよ、あんたは…」


恐らく気が大きい方ではないのだろう、彼はゼロスの言葉に怯んだ。しかしすぐさま虚勢を取り戻し、やれるものならやってみろと言わん許りの視線を一行に投げ掛ける。だが次の一言が止めとなり、うっすらと笑みを湛えているその顔から、可哀相なほどに血の気が引くこととなった。


「神子ゼロスさまを知らないたぁ、いい根性してるじゃねーか」

「…み、神子さま!?」


瞠目した店主は、ロイドが握っている要の紋を無理矢理奪い取り、ゼロスの両手に押し付けた。冷や汗を垂らしながら、必死の形相で一行に懇願する。


「このガラクタ…いえ、これは差し上げますのでお許し下さいませ!」

「うむうむ。良い心掛けだ。覚えておくぞ」


要の紋を受け取って満足そうなゼロスは、未だ頭を下げ続ける店主の肩を軽く叩き、彼に背を向ける。そして何が起こったのか今一理解出来ていないのか、未だ目をぱちくりさせているクレアの両手を掬い取り、光り輝くそれを収めて彼女の指先にキスを一つ落とした。














to be continued...

(10.03.02.)


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