ゼロスから聞いた話の通り、サイバックという街は研究や学問に力を注いでいるらしい。街に入る人々を待ち構えているかのような巨大な図書館、そこへ出入りする研究員や学生。そして、街の西にある王立研究院を見れば一目瞭然だった。


「なあ、ロイド。少しだけ図書館に寄っては…」

「駄目だ」


門を潜った瞬間から、きらきらと子供のように目を輝かせるリフィルの願い出をロイドが一刀両断する。このやり取りは何度目になるのだろうか。ジーニアスが溜め息をつく隣で、クレアは楽しそうにその光景を眺めている。
すると、一人の研究員が「神子さま!」と、ゼロスを呼んだ。


「お待ちしておりました、神子さま」









どこから「神子が来訪する」という情報が漏れたのだろうか、廊下を渡るだけで女性研究員達が耳を劈くほどの黄色い声を上げ、皆が挙ってゼロスの元へ挨拶に来た。しかし彼は女性達に対して嫌な顔一つせず、一人一人、丁寧に言葉を返す。


(…また、これ…)


ゼロスが見知らぬ女性に声を掛けられる度、もやもやした何かが胸中に広がる。城の時と同様、彼から視線を外せばすぐに消えてなくなる、それ。


(…私、どうしちゃったの。…これは、何…?)


一階の研究室へ通され、扉を閉めた研究員が部屋の中央に安置されている機械のボタンを押した。すると、空中に幾つもの資料が浮かび上がる。彼が語り出したのを機に、クレアはそれについて思考することを止めた。


「クルシスの輝石はエクスフィアの進化系と考えられます。二つの結晶体は共に無機生命体で…」

「何ですって!」

「むき…?何だそりゃ」

「無機生命体。そうね、つまりエクスフィアも生きているってことよ」


リフィルの言葉に否応無く説明を中断された研究員は、ずれ落ちてしまった眼鏡を直しながら頷いた。彼は空中に浮かぶ資料の一点を指差し、手元の資料と見比べながら説明を続ける。


「そうです。二つの結晶体はどちらも他の生命体に寄生し、融合する性質を兼ね備えています」


エクスフィアが「生きている」…?それじゃあ、私のお母さまはこの宝石の中で生き続けている。そういうこと、なの…?


「この時、要の紋がないと体内のマナがバランスを崩し、暴走すると考えられます」

「だから…要の紋なしのエクスフィアは人の姿を変えちゃうんだね」


どこか憂いを帯びた表情でジーニアスは言った。
イセリア人間牧場で知り合ったマーブル、パルマコスタで出会ったクララ達のことを思い出しているのだろうか…。その表情は苦痛に歪んでいた。下唇を噛み締め、固く握った拳は小刻みに震えている。


「ジーニアス…」


小さな肩にそっと手を置けば、彼は今にも泣き出してしまいそうな瞳でクレアを見上げた。だいじょぶだよ、優しく微笑みかける。


「…その通りです。クルシスの輝石がエクスフィアと同質のものである以上、現在のコレットさんは輝石に寄生されていると推測されます」


本当は、私自身も泣き出してしまいそうだった。マーブルさんとも、クララさんとも言葉を交わしたことはないけれど…。
じんわりと涙が滲んでいたことに気付き、慌てて袖口で目許を拭う。すると、今度は自身の肩に温かい何かが置かれた。


「そんじゃあ、要の紋があれば彼女は元気になるんだな?」

「そうですね。要の紋があればクルシスの輝石を自由に操れるようになるはずです」


研究員の説明を聞き終わると、パチリとウィンクを見舞うゼロス。クレアの肩に手を置いたのは他でもない、シルヴァラントでの事情を知らないはずの彼だったのだ。その優しさに思わず頬が、涙腺が緩んでしまった。


*prev top next#

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -