「ほら見ろ。だから言っただろ。エクスフィアを付けてるんだ、こいつらは強いに決まってる」
「ふーん。とぼけた顔の割には賢明な判断だね」
地団駄を踏む教皇にゼロスが吐き捨てると、挑発するようにジーニアスが言う。それに対して反論しようとしたのだろう、ゼロスが口を開くと同時に、リフィルが提案を持ち掛けた。
「どうかしら。取引をするのは」
「取引…だと?」
突然の出来事に教皇とゼロスは眉を顰めた。それに構うことなく、リフィルは続ける。
「コレットが心を失ったのは、天使として生まれ変わりシルヴァラントを救う為。言い換えれば、彼女が天使にさえならなければシルヴァラントは救われない」
するとゼロスは面白そうに目を細めた。先程コレットが天使術を発動させた時も、彼だけは無反応だった。まるで、こうなることが分かっていたと言わん許りに。
「だから俺達が神子を助ければテセアラも救われるってことか」
「それはお前達がシルヴァラントを見捨てるということだぞ」
「構わなくてよ」
ゼロスと教皇、二人からの問いにリフィルは躊躇うことなく頷いた。信じられないといった様子でロイドが詰め寄るが、返ってきた答えは酷く現実的なものだった。
「今私達が最優先しなければならないのは、コレットを救うことではなくて?」
「でも…シルヴァラントを見捨てるなんて…」
力無く俯いてしまったジーニアスを見、クレアはコレットへ視線を戻す。
「…分かった、今はコレットを救うことが一番だ。その為に俺達はテセアラまで来たんだ。頼む、コレットを救う方法を教えてくれ!」
深く下げられたロイドの頭を見ても、教皇は頑として首を縦に振らなかった。
「お願いします!コレットは…大切な友達なんです!」
ロイドの隣に並び、クレアも頭を下げる。しかし教皇の表情は一層険しくなるだけだった。見兼ねたゼロスが間に入る。
「なあ、教皇。こいつらがシルヴァラントに戻れなければ、死んでようが生きてようが再生の儀式は出来ねぇんだぜ。だから俺さまがこいつらの監視役になる。…それで良いだろう?」
そう言って教皇の肩を抱くが、やはり首を縦に振ろうとしない。すると腕に力を込めたのだろう、小さな悲鳴が上がった。
「…な?良いだろう?」
凄みを利かせて教皇の視線を捉えると、彼は渋々といった様子で頷いた。
「…みっ、神子さまがそこまでおっしゃるのでしたら…。…お前達には、テセアラを旅する許可を与える。…但し、神子さまの監視の下で…な」
「出来るだけのことはしてやるよ。神子ゼロスさまの名に懸けてな」
ロイドとクレアは目にも止まらぬ速さで頭を上げ、互いに微笑み合った。その様子を見たゼロスは教皇から腕を離し、一行に向き直った。
「よ〜し、決まりだ。じゃあ俺さまも旅の準備をしてくるから、合流は後で良いかな」
「どこで落ち合うんだ?」
「マーテル教会の大聖堂はどうだ?」
恐らくプレセアと出会った教会のことだろう、ロイドは皆を代表して頷いた。
「…では神子さま。陛下にご報告を」
教皇は首を擦りながら絞り出すような声でゼロスに言う。どうやらかなりの力で締め上げられたらしい。その証拠に、うっすらと跡が残っていた。
「はいよ。じゃ〜な〜、ゴージャスなお姉さまと可愛い神子ちゃんと、俺さまのハニーと、ちっちゃな美少女ちゃんとその下僕ども〜」
「あ…あのっ!」
「ん?」
踵を返そうとした彼らを呼び止めると、紅い髪がふわりと舞う。クレアは満面の笑みでゼロスを見据えた。
「…ありがとう!」
to be continued...
(10.01.24.)
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