国王の命を受け案内を任された祭司が扉を開く。一行は『紅の間』と呼ばれる一室に通された。まさにその名に相応しく、壁や絨毯、家具やその模様など、全てが紅で統一されている。
仲間達が会話をしている中、クレアの思考は別のものに向いていた。


(…まるで、天使さまの髪の色みたい…)


部屋のどこを見ても紅。ゼロスの髪色を彷彿させるそれに、思わず笑みが零れる。扉の模様をよく見ようと近付いた時、再び蒼と目が合った――。

ゼロスがにこりと微笑むと、クレアの顔は真っ赤に染め上げられる。恥ずかしい気持ちからか、つい、と顔を逸らした。


「待たせたな。シルヴァラントの旅人よ」


教皇が声を上げると、一行の視線はゼロスからそちらに向く。


「手紙は読んでもらえたんだな」

「そっちの神子を助ける為に、俺達テセアラ人の技術を借りたい…ってか?」


寸分狂わぬゼロスの言葉にロイドは力強く頷く。ソファに腰掛け、生気の感じられない瞳で扉を見つめるコレットを一瞥し、教皇達に向き直った。


「コレットは心を失ってる。このままじゃ人間としての命を失っちまうんだ」

「しかし神子が生きている限り、我々の世界は滅亡と隣り合わせだ」


教皇の視線がコレットを捉え、指を鳴らすと数名の騎士が扉から雪崩込んだ。長く鋭い槍を構え、一行を包囲する。
肩越しにコレットを一瞥すると、赤く染め上げられた瞳がどくんと揺れた。


「待ってくれ!俺達の話も…」

「問答無用!掛かれ!」


ロイドの声も虚しく、騎士達はコレット目掛けて武器を振り翳す。すると、コレットの背に天使の羽が出現し始めた。

天使術を発動させる気だ…!そう思った瞬間、身体が勝手に動いていた。


「だめっ!コレット!」


轟音と共に目の前が光に包まれた。恐る恐る瞼を開けると今にも騎士達の鎧を貫こうとしている無数の大剣。剣は眩い光を放っており、密度の濃いマナで構成されているのが分かる。
強大な天使術を目の当たりにした騎士達は腰が抜けたらしく、落とした武器を拾うどころか、立ち上がることすら出来ないようだった。


「だいじょぶ…。誰も、コレットのことを傷付けたりしないよ…」


そう言って優しくコレットを抱き締めると、光の大剣が消滅する。いつの間にか、彼女の背で輝く天使の羽も消えていた。


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