「…可愛い」
プレセアが踵を返した時、ジーニアスが呟いた。視線はプレセアの背中を真っ直ぐに捉え、ほんのりと頬が染め上げられているように思える。彼女の姿が見えなくなると、名残惜しそうに扉を見つめていた。
「今のプレセアって子もエクスフィアをつけてたな。こっちにはそんな習慣でもあるのか?」
「そうだね、可愛いね」
「…人の話、聞いてねーな」
未だ扉から視線を外そうとしないジーニアスに、呆れるロイド。ふむふむと頷くクレアの横でリフィルは祭司に訊ねる。
「祈祷というと国王陛下の病気快復を祈るとかいう…?」
「はい。神子さまと教皇さまが陛下の御前にて祈祷を行い、マーテルさまのお力添えをいただくのです」
「そうか、ありがとう」
何かを閃いたらしいロイドが祭司に礼を延べ、一行を振り返る。周囲に聞こえないよう声を落として語り出す。
「みんな!国王に会う方法が見つかったぜ」
「何?どうするの?」
「神木を運び込むフリをして潜入するんだよ」
ロイドの意見を聞いたリフィルは、そう言うと思ったわ、と肩を竦めた。心做しか、その表情は楽しそうに見える。
「さっきのプレセアって子に協力してもらおうぜ」
「え!ホ、ホント!?それ、ボク、大賛成!」
「よし。じゃあプレセアを追い掛けよう」
教会と城の距離は近く、今頃プレセアは城に入っているかもしれないと考えたが、それは杞憂だった。教会を出てすぐの広場、プレセアは小太りの男と立ち話をしていた。
「じゃあ頼むぜ。神木をアルタミラまで。この仕事の後で良いからな」
「…分かりました」
「順調だな。早速ロディルさまにご報告だ」
そう言って男はその場から立ち去る。プレセアが再び巨大な丸太を引き摺って歩き出すと同時に、ジーニアスが頬を赤くしながら声を掛けた。
「待ってよ、キミ!えっと…プレセア!ボク達に、神木を運ぶのを手伝わせてもらえないかな?」
「………」
プレセアはジーニアスを一瞥すると、無言のまま横を通り過ぎる。落ち込むジーニアスを余所に、今度はリフィルがプレセアの前に回り込んだ。
「ごめんなさい。怪しい者ではないのよ。実は私達、陛下にお渡ししたい手紙があるの」
「仲間の命がかかってるんだよ。でも王さまは病気で謁見してもらえないから、困ってるんだ」
ロイドが必死に懇願するがプレセアは口を開かず、虚ろな瞳で一行を見上げるだけだった。
「俺達を運び屋として使ってくれるだけで良いんだ」
「お願い、プレセア!」
「…分かりました」
プレセアは取っ手から手を離し、機械的な動作で丸太を指差した。
「それ…運んで下さい」
「よ、よし!任せとけ!ちょっ、ちょっと待ってくれ!こ、これ…重…」
ロイドとジーニアスが二人掛かりで持ち上げようとするが、丸太は微動だにしない。歩き出していたプレセアが引き返し、取っ手を掴んで丸太を引いてゆく。その姿を見たロイドとジーニアスは顔を見合わせ、消え入るような声で言った。
「俺、男として…自信なくなってきた…」
「ボクも…」
to be continued...
(09.12.30.)
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