「今の光、神託と関係あるのかな」「聖堂って村の北にあるあの建物のこと?」と、教室はもはや自習どころではなかった。窓の外を眺めている男の子、立ち話をしている二人組みの女の子。
生徒達の話題は窓から溢れる光で持ち切りだ。

この状況ならば誰も自分に注目していないだろう。ここぞといわんばかりにロイドは教室を抜け出した。
…と、思ったのだが。


「どこ行くの?」


ジーニアスの呼びかけに、ロイドは足を止めた。


「まさか抜け出すつもり?姉さんが怒るよ」

「だって気になるだろ?昔から予言の日にはコレットが再生の神子として神託を受けるとか言われてさ。実際どんなことが起きるのか全然知らされてないし」

「でも、姉さんは自習してろって言ってたよ」

「課外授業の自習だよ」

「そんなの屁理屈だ」

「屁理屈も理屈だろ。かたいこと言うなって」


お前も一緒に行くよな?親友だもんな!と、いたずらっぽく微笑んでジーニアスの顔を覗き込んだロイド。そんな幼馴染の様子に肩を竦めたものの、彼もまたいたずらっぽく笑ったのだった。
「クレアもコレットも一緒に行こうぜ!」というロイドの誘いに、ふたりの少女は同じタイミングで同じような表情で彼らを向いた。


「…え?あっ、うん。えと、どこへ?」

「あのなー!あの光だよ。お前は当事者なんだし気になるだろ?」

「んー…。ロイドは気になるの?」

「気になってるのっ!」

「じゃあ、私も気になることにするね」


コレットとクレアは互いに微笑みあい、ロイド達と共に教室を後にした。


* * *


「あの光はやっぱり聖堂から出てたんだな!」

「じゃあ神託が下るんだ。コレットが再生の神子になるんだね」


神子に課せられた使命はシルヴァラントを救うこと。コレットはシルヴァラント――世界の命運を握る存在なのだ。
彼女の旅が成功すれば世界は再生される。しかし、神子による世界再生の旅は八百年もの間失敗が続いていると聞く。それぐらい、旅は過酷なものだということ。


「なんだかすご〜く眩しいねぇ」

「うん。眩しいねぇ〜」

「お前らさ…。神託が下ったら世界を救う神子になるんだろ。勇者ミトスみたいになるんだぜ。もう少しこう、神子としての自覚みたいなさぁ…」

「うん。だいじょぶ、だいじょぶ」


そう言ってコレットはにこりと微笑んだ。
そんな彼女の横顔を一瞥し、クレアは僅かに視線を落とした。


「神子さま!」


クレア達とは違う聞き覚えのある声。
階段の先に見えたのは聖堂の祭司長だった。けれどいつものような柔らかな笑みはそこになく、苦しそうに眉を顰めて腹部を押さえていた。彼が歩いたあとには、赤い液体が染みをつくった。

誰が見ても一目瞭然だった。祭司長は傷を負っている。それも命に関わるほど大きな傷だ。


「突然、ディザイアンらしき者共が…不可侵契約に反して聖堂に攻め込んで…きたのです。神子さま…早く、神託を…」

「ええ。わかっています」

「くれぐれも…お気をつけて…。神子さまをお護り出来ず、む…無念…で…」

「祭司長さま、しっかり!」


握っていた右手から力が抜けた。
ことん。と、悲しい音を立てて地面に落ちる。


「…ダメだ。もう…息がない」

「…っ!嘘でしょ!?」

「…私、行くね」

「コレット!あそこにはディザイアンがいるんだよ!」

「うん。…でも行かないと。予言の日に神託を受けるのが神子である私の役目だから。みんなはここで待っててね」


聖堂には祭司長を死に至らしめた犯人がいるのだ。怖くないはずはない。けれどコレットは微笑んだ。
クレア達に背を向け、一歩を踏み出す。


「わ…私も行く!」

「!」

「だって、私達友達だもん!」

「クレア…」

「勿論だ。コレット一人で行かせられるかよ」

「いいの?危ないよ」

「ドワーフの誓い、第1番。平和な世界が生まれるようにみんなで協力しよう、だ。行くぞ」

「待ってよ。ボクも行く。姉さんが心配だもの」

「みんな…。ありがと」


祭司長の魂が安らかに眠れるようにと祈りを捧げ、クレア達一行は階段を駆け登った。


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