ふわり、風が頬を掠め、暗闇の世界から抜け出したことを知る。眼下に広がるは新たな景色。
…ここが、テセアラ…。緑豊かなシルヴァラントとは違って、随分と文明が発達しているみた、い…?
クレアの思考は、レアバードの失速により遮られた。
「うわ、な、何だ!?」
「…見て!燃料がゼロになっているわ!」
リフィルの声に皆は各々が跨がっているレアバードに目をやる。
燃料がない?あの、それって…。
「そうか!あんた達がシルヴァラントで封印を解放したから、こっちのマナが不足してるんだ!」
「だから!?」
「落ちるってことサ!」
しいなの言葉を皮切りに、仲間達の悲鳴が次々と耳に届いた。クレアは振り落とされまいと機体にしがみつく。
こ、こんな高さから落ちたら絶対に死んじゃうよ…!
しかしその様子を嘲笑うかのようにして、強風が二人の身体を攫った。レアバードの握りを掴もうと伸ばした手は、虚しくも空を裂くだけだった。
「…い、いやぁああぁあ!」
遠ざかってゆく仲間達を目の端で捉え、止まるどころか加速しながら真っ逆さまに落下してゆく。
…ああ、お母さま。私ももうすぐそちらへ向かいます。あの日の約束は果たせそうにありません。…ごめんなさい、お母さま…。
不意に、コレットがクレアの指を絡め取り、血のような赤で真っ直ぐクレアの瞳を捉えた。
「…コレット…」
…そうだよね。ここで諦めちゃ駄目だ。やれるだけやってみないと!…でも、一体どうすれば…。
クレアが考えを巡らせている内に、豪奢な街が足下に広がった。
「ど、どこか落ちてもだいじょぶそうな場所…」
コレットの手を強く握り必死に辺りを探すが、衝撃を和らげてくれそうなものは見つからない。
大きな広場にいる人集りがハッキリと見えて来た。きらびやかな衣装を身に纏った大勢の女性と、その中心に、紅。もう駄目だと瞼を瞑った時、脳裏に浮かんだのは――。
「…てん、しさま…?」
紅と蒼。クレアは自身の目前で瞠目している人物に目を奪われる。
暫し思考が停止した後、衝撃がないことに気が付き、コレットに姫抱きされていることを実感した。彼女の背には、薄桃色に輝く天使の羽が生えていた。
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