「二つの世界を作ったのがユグドラシルなら、お前達はそんな連中相手に何をしようとしてるんだ。それだけじゃない。お前達は、コレットの命を狙ってた。俺のことも、だ。到底味方とは思えない。それなのにどうして俺達を助けたんだ!?」
「…我々の目的はマーテル復活の阻止。その為には、マーテルの器となる神子が邪魔だったのだ」
男の代わりに答えたボータがコレットを一瞥する。まさか…まだコレットを狙ってたりするのかな。そしたら戦うしか――
「もっとも…神子は完全天使と化してしまった。今の神子は防衛本能に基づき敵を殺戮する兵器のようなもの。下手に手出しは出来ん。しかしマーテルの阻止という我々の目的を果たす為に最も重要なものは、既に我らが手中にある」
男の言葉にほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、扉から雪崩込んで来た兵士達が一行を取り囲む。前回のような逃げ場は、どこにもない。
「我々に必要なのは貴様だ!ロイド・アーヴィング!」
「…俺!?俺が一体何だって言うんだ…」
「貴様が知る必要はない。ロイドを捕らえろ!」
男が合図を下すと、兵士達がじりじりと距離を縮めて来る。一人の兵士がクレアの腕を捕えた瞬間、コレットの背に薄桃色の羽が出現した。兵士の手を薙ぎ払い、感情のない瞳でクレアを捉える。
「…コレッ…ト?」
まるでクレアの呼び掛けに呼応するようにコレットの身体が宙に浮いた。両手を真横に伸ばすと白い光が降り注ぎ、無差別に周囲を破壊してゆく。
…救いの塔でクラトスが使った術と、一緒だ…。
次々と兵士達が倒れてゆく中、突如聞こえた大きな物音にはっとする。見ると男が苦しそうに腹部を押さえ片膝を突いていた。血が、滲んでいる。
「…くっ」
「ユアンさま!いかん、ハイマでの傷が開いてしまわれたか!」
「…クラトスめ。どこまでも私の邪魔をする!」
駆け寄って来たボータに支えられるユアンの姿を見、ある日の記憶が繋がった。
「ハイマでの傷…?まさか、あの時クラトスを襲ったのは…」
「クレア!何やってんだい!」
しいなに呼ばれ、未だ宙に浮いたままのコレットの腕を掴む。クレアは、一目散に扉を目指した。
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