勝敗は、一瞬で着いた。力強く迷いのない太刀に、共に旅をしていた頃には見たこともない強力な魔術。私達はクラトスの足元にも及ばなかった。
ロイドの双剣を薙ぎ払い、喉元へ長剣を突き付ける。それを振り上げ――


「…っ!」


しかし、いつまで経っても剣が降り下ろされることはなかった。クラトスの瞳に初めて迷いの色が見えたその時、二人の間に眩い光が差した。あまりの眩しさに一行は目を覆う。
光が弱まったのを確認して瞼を開けると、頭を垂れたクラトスと、美しい天使がいた。中性的な顔立ちの半分をブロンドの長い髪が隠している。背に十二枚の翼を生やし、無機質な緑色の瞳でクラトスを見下ろす。


「やはりいかなお前でも本気で対峙するには至らなかったか…」

「ユグドラシルさま」


クラトスにユグドラシルと呼ばれた天使はロイドを一瞥する。その圧殺されそうな瞳にロイドは身体が強張るのを感じた。


「お前がロイドか…?」

「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗れ」

「ハハ…。犬の名前を呼ぶ時にわざわざ名乗る者はいまい。だが、哀れな人間の為に教えよう。我が名はユグドラシル。クルシスを…そしてディザイアンを統べる者だ!」


そう言って手を翳すと、今までに感じたことがないほど濃密なマナが掌に収束されてゆく。それはクレアの頬を掠り、後方の仲間達に命中した。
後ろを振り返った時には隣に居たはずのロイドが吹き飛び、塔の支柱に身体を強く打ち付けていた。痛々しい音が耳に響く。


「残るはお前だけだ。クラトス、異存はないな?」

「………」

「さらばだ」


クレアはぺたりと力無く座り込んだまま、ユグドラシルを見据えた。抵抗する体力は残っていない。クレアの目前に手を翳し、天使は僅かに眉を顰めた。


「…お前のその目、気に食わんな。これから死ぬ者に相応しくない」

「………」

「…このマナ。そうか、お前はマナの血族、か。しかし神子が天使化した今、それももう用済み」


目の前に光が溢れる。それでもクレアが瞳を閉じることはなかった。景色が全て、白に包まれた。


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