《神託の村 イセリア》

緑豊かな村の一角に一つの学び舎があった。クレアがここに通い始めて二年になる。教師は一人で生徒達の年齢層は幅広い。生徒の人数自体が少なく村もそれほど大きいわけではなのでクラスメイト全員が顔見知りだった。
年齢や性格を反映しているのか、授業に臨む姿勢は真面目に話を聞いている者や頬杖をついている者など様々だ。

クレアは一番後ろの座席から鳶色の少年をちらちらと窺っていた。
両手に桶を持たされているにも関わらず、器用に居眠りをしているこの少年の名は、


「起きなさい。ロイド・アーヴィング?」


美しい銀髪を揺らしてクレアらの師リフィル・セイジはロイドの元へと歩んでゆく。しかし、彼が目を覚ます気配は一向にない。

大きく息を吸ったリフィルは手にしていた黒板消しを投げつけた。するとそれはクレアの髪を掠め、見事ロイドの顔面に命中した。
肺いっぱいに白墨を吸い込んだロイドは咳き込みながら目を覚ます。


「いっ…てぇ〜!」

「立ったまま眠れるなんて器用ねぇ」

「…あ、リフィル先生。授業終わったのか?」


寝ぼけ眼で教室を見回すロイドにリフィルは大きなため息をついた。
一体これが何度目のやり取りになるのだろう。

肩を落とすリフィルとは対照的に、生徒達はくすくすと笑い声を上げる。
その一方でロイドは恥ずかしそうに「へへへ…」と笑っていた。


「もういいわ。じゃあ今の答えを…ジーニアス。あなたが答えて」

「はい、姉さん」


姉と同じ銀髪を揺らし、ジーニアスは起立する。

彼、ジーニアス・セイジは12歳にして村一番の秀才だ。その実力はかの有名な進学校から推薦書が届くほど。勉強の苦手なロイドなどはよく、彼に宿題を手伝ってもらっている。

彼らもまたクレアと同じく、雨の降る日にイセリアへやってきたという。


「古代大戦は勇者ミトスによって聖地カーラーンで停戦されました」

「よろしい。その後、勇者ミトスは女神マーテルとの契約によって戦乱の原因であるディザイアンを封印しました」

「でも、ディザイアン達は復活して俺達を苦しめてるじゃないか」

「前に授業でやったでしょう?封印が弱まるとディザイアンが復活するのよ。ちょうど今のようにね」

「わ、分かってるよ。忘れてただけで…」

「今日は予言の日です。マナの神子がマーテルさまの神託を受ける重要な日よ。では、神子コレット」

「はい」


柔らかな金糸を揺らし神子コレットは起立する。
彼女が身につけている純白のワンピースには青色のラインが入っていて、美しく、神秘的な雰囲気すら醸し出していた。

誰かが意図したわけではないのに、教室中の視線が自然とコレットに注がれる。


「世界再生の旅について答えて」

「ディザイアンを封印する旅のことです。女神マーテルの試練をこなすと世界を護る精霊が復活し、マナも復活します」

「そう、流石は神子ね。現在の食糧不足や日照りはマナの枯渇が原因です。これは、ディザイアンが人間牧場でマナを大量に消費しているからだと言われているわね。神子の旅はマナを復活させディザイアンを消滅させる旅と言えるわ。では、次の問題は…」


リフィルと視線がかち合い、思わず背筋が伸びたその時。教室中が白に包まれた。あまりの眩しさに顔を覆いながらもクレアは窓の外に目を遣った。
一筋の光が森の向こうに突き刺さっている。

窓に駆け寄ったり教室の外に飛び出そうとする生徒を呼び止め、着席するよう促し、リフィルは言う。


「どうやら神託が下るようね。私は聖堂の様子を見てきます。みんなは教室で自習していること。よろしい?」

「先生!私も一緒に…」

「いいえ、コレット。神託なら祭司の方々がこちらまでいらっしゃるはず。あなたもここで待っているように」

「…はい」


胸の前で手を組み、コレットは静かに着席した。


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