05.帰したくない
「終電まであと二十分か…ここからなら、充分間に合いますね」
「そうか。すまないな、車で送ってやれればいいんだが…」
「いえ、私の方こそ、こんな時間まで付き合って頂いて、ありがとうございました。豪炎寺さん、明日も朝早いんでしょう?」
「いや、気にするな。いい息抜きになった」
「ふふ…優しいですね、やっぱり」
「……お前にだけだ」
「え?」
「こんな風に気遣うのも、二人で飲むのも、他の女にはしない。するのは、お前だけだ」
「豪炎寺さん、それって……」
「……っ、すまない、大分酔ってるらしい。今のは忘れてくれ」
「む、無理ですよ…忘れるわけないです…そういうの、期待しちゃいます……」
「…!」
「わ、たし、豪炎寺さんのことが…」
「待て、それ以上言うな」
「!ご、ごめんなさい、少し調子に乗ってたみたいです。迷惑ですよね」
「迷惑なんかじゃない。だが、そんな事を言われると……帰したく、なくなるだろ…」
「…豪炎寺さん…っわ、私……」
「…?」
「…私も……帰りたくなくなりました…」
帰したくない
(……終電、乗り遅れちゃっても良いですか?)
(ああ。そうしてくれると、嬉しい)
title by鏡花水月さま